- 真核細胞の特徴のひとつは、細胞小器官が存在することである。何が真核細胞の中で主要な器官であるか。それぞれの細胞分器官の働きは何か。細胞質とは何か。細胞質で起こる細胞内過程は何か
- タンパク質、水溶性巨大分子、大きな粒子の取込みはすべての細胞に必要な基本的な過程である。分子の大きさがしばしばその取込み方法を決める。ファゴサイトーシスとエンドサイトーシスがどのように違うか、取込まれる物質に一般的に起こることは何かを述べよ
- ミトコンドリア、葉緑体、ゴルジ体などの細胞小器官はそれぞれ特徴的な構造をしている。それぞれの細胞小器官の構造と機能はどのように関連しているか
- 細胞機能に関してわかっていることの多くは、特別な細胞や細胞の特別な部分(たとえば細胞小器官)を用いた実験に依存している。科学者はどのような共通技術を使って複雑な混合物から細胞や細胞小器官を単離するのか、どのようにしてこれら技術は働くのか
- 光学顕微鏡法も電子顕微鏡法も共通して細胞,細胞構造,特別な分子の局在を可視化するのに使われる。なぜ科学者は研究のために1種類あるいは他の顕微鏡法を使うのか説明せよ
- どの顕微鏡でも倍率は大切な特性の一つであるが、非常に近い二つの物体を区別する分解能はより重要な特性である。顕微鏡でより良質な細部を観察する場合、なぜ、倍率よりも分解能のほうが大切なのか。顕微鏡レンズの分解能を表す公式は何か、またその公式の値を制限するものは何か
- 基本的な光学頭微鏡で細胞や組織を観察するために、なぜ、化学染色が必要なのか。光学顕微鏡観察のために試料染色する化学染色剤と比較して、蛍光色素と蛍光顕微鏡法はどのような長所があるか。通常の蛍光顕微鏡法に比較して,共焦点顕微鏡法やデコンボリューション顕微鏡法はどのような長所があるか
- ある種の電子顕微鏡法では、試料は直接は画像化されない。 これら方法ではどのように細胞構造の情報をどのように提供しているのか、どのようなタイプの構造を可視化するのか
- 細胞株,細胞系,クローンの違いは何か
- ある種の細胞系は筋肉や脂肪細胞の分化と機能の研究に用いられているが、その理由を説明せよ
- 研究に利用されているモノクローナル抗体を産生するために細胞融合の過程が必要である理由を説明せよ
真核細胞の特徴のひとつは、細胞小器官が存在することである。何が真核細胞の中で主要な器官であるか。それぞれの細胞分器官の働きは何か。細胞質とは何か。細胞質で起こる細胞内過程は何か
真核細胞の主要な細胞小器官とその機能、および細胞質の定義とそこで起こる主な細胞内過程について、以下のようにまとめられます。
真核細胞で主要な細胞小器官
- 核(nucleus)
遺伝情報(DNA)を保存・複製・管理し、細胞の活動を制御する中心的な構造。 - ミトコンドリア(mitochondrion)
細胞のエネルギー生産(ATP合成)の場。細胞の「発電所」と呼ばれる。 - リボソーム(ribosome)
タンパク質合成の場。mRNAの情報をもとにアミノ酸をつなぎ、タンパク質を組み立てる。 - 小胞体(endoplasmic reticulum; ER)
粗面小胞体(rER):リボソームが付着し、主に分泌タンパク質や膜タンパク質の合成・修飾。
滑面小胞体(sER):脂質の合成、薬物解毒、カルシウムイオンの貯蔵などに関与。 - ゴルジ体(Golgi apparatus)
タンパク質や脂質の修飾、仕分け、細胞内外への輸送のパッケージング(梱包と発送センター)。 - リソソーム(lysosome)
不要物・異物などの分解酵素をもち、細胞内の「ごみ処理場」として機能。 - ペルオキシソーム(peroxisome)
脂肪酸の分解や過酸化水素の分解など、特定代謝経路に関与。 - 中心体(centrosome)
細胞分裂時に紡錘糸を形成し、染色体の正確な分配に必要。 - (動物・植物の違いとして)
植物では葉緑体(光合成の場)、液胞(物質貯蔵と浸透圧維持)なども主要な小器官となる。
細胞質(cytoplasm)とは何か
細胞質は、「細胞膜内部で、細胞核以外の全領域」を指します。
細胞質で起こる主な細胞内過程
- 解糖系を中心としたエネルギー代謝(ミトコンドリアに入るまでの生化学反応)
- タンパク質合成(リボソームで行われる)
- 脂質・糖・アミノ酸など各種代謝経路
- 細胞骨格の動態や物質輸送
- 細胞小器官間の物質交換と情報伝達
- 細胞質流動や細胞分裂(細胞質分裂)など細胞の形態・動態維持
細胞質は、細胞活動の多くが集中している「化学工場」であり、細胞の生存と機能維持に不可欠な反応・システムが絶えず稼働している場所です。
タンパク質、水溶性巨大分子、大きな粒子の取込みはすべての細胞に必要な基本的な過程である。分子の大きさがしばしばその取込み方法を決める。ファゴサイトーシスとエンドサイトーシスがどのように違うか、取込まれる物質に一般的に起こることは何かを述べよ
ファゴサイトーシスとエンドサイトーシスは、いずれも細胞が外部から物質を取り込むメカニズムですが、主に取り込む物質の大きさや種類によって区別されています。
ファゴサイトーシス(食作用)
- 概要
主に「大きな粒子」(異物、死細胞、細菌など)を取り込む方法です。白血球(マクロファージや好中球)に代表される一部の細胞で特に発達しています。 - 仕組み
細胞膜が突出して大きな粒子を包み込み、「ファゴソーム」と呼ばれる大きな膜小胞を形成して取り込みます。 - 取込後の運命
ファゴソームは内部でリソソームと融合し、リソソーム酵素によって内容物が分解・消化されます。
エンドサイトーシス(飲作用・受容体介在型エンドサイトーシスを含む)
- 概要
主に「小さな粒子」や「水溶性巨大分子」などを取り込む方法で、ほとんどすべての真核細胞で幅広く認められます。 - 仕組み
細胞膜が内側にくびれて小胞(エンドソーム)をつくり、外部の分子や液体成分を包み込んで細胞内に取り入れます。
ピノサイトーシスは「液体(水溶性分子)」、受容体介在型エンドサイトーシスは「特定の分子」を効率的に取り込みます。 - 取込後の運命
エンドソーム内の物質も、やがてリソソームと融合し、分解・消化されることが大半です。ただし、特定の分子はリサイクルされる場合もあります。
まとめ:両者の違いと共通点
項目 | ファゴサイトーシス | エンドサイトーシス |
---|---|---|
主な対象 | 大きな粒子(細胞片、細菌等) | 小分子・水溶性分子・液体成分 |
担当細胞 | 主に食作用細胞(例:マクロファージ) | ほぼ全ての真核細胞 |
メカニズム | 細胞膜の伸長が粒子を包み込む | 細胞膜がくびれて小胞を形成 |
取込後の処理 | ファゴソーム→リソソームで分解消化 | エンドソーム→リソソームで分解。この過程中で選別・リサイクルもあり |
つまり、ファゴサイトーシスは大きな粒子の取り込み、エンドサイトーシスは小分子や液体の取り込みに最適化された機構であり、いずれも最終的にはリソソームなどによる分解・消化が起こる点が共通しています。
ミトコンドリア、葉緑体、ゴルジ体などの細胞小器官はそれぞれ特徴的な構造をしている。それぞれの細胞小器官の構造と機能はどのように関連しているか
ミトコンドリア、葉緑体、ゴルジ体などの細胞小器官は、それぞれ独自の構造をもち、その構造が固有の機能を支える仕組みになっています。以下に主な細胞小器官の構造と機能の関連をまとめます。
ミトコンドリア
- 構造
ミトコンドリアは「外膜」と「内膜」の二重膜構造をもちます。内膜は多数のひだ(クリステ)を形成し、ミトコンドリア内部はマトリックスという空間で満たされています。また、ミトコンドリアDNAも持っています。 - 構造と機能の関係
内膜上には電子伝達系やATP合成酵素など、ATP産生に必要な酵素群が集まっています。クリステのひだが表面積を増やすことで、多くのATP合成反応が効率良く進みます。マトリックス内ではクエン酸回路(TCA回路)が行われ、代謝産物や電子が内膜の機構へ運ばれます。 - 機能
細胞のエネルギー生産(ATP産生)の中心。
葉緑体(主に植物細胞)
- 構造
葉緑体も二重膜構造をもち、内部には扁平な袋状の構造(チラコイド膜)が積み重なり(グラナ)、ストロマという基質中に分散しています。独自の葉緑体DNAも存在。 - 構造と機能の関係
チラコイド膜には光合成の光化学反応系やATP合成酵素が局在し、光エネルギー変換を効率化。ストロマではカルビン回路によるCO₂固定が行われます。 - 機能
光合成(太陽光エネルギーから有機物合成)を担う。
ゴルジ体
- 構造
膜で囲まれた扁平な袋状構造(シス(cis)面からトランス(trans)面まで複数枚重なる)のスタックとして見られます。 - 構造と機能の関係
シス面で小胞体由来のタンパク質や脂質を受け取り、ゴルジ体内の各シスチルナで化学修飾(糖鎖付加・切断など)や仕分けが行われます。最終的に、トランス面で小胞状にして輸送先へ届ける。 - 機能
タンパク質・脂質の修飾、仕分け、細胞外や他の小器官への輸送。
まとめ
- ミトコンドリア…内膜・クリステがATP合成場所として機能的に最適化
- 葉緑体…チラコイド膜が光化学反応の場、ストロマがCO₂固定の場
- ゴルジ体…層構造による段階的な修飾・仕分けの効率化
このように、各細胞小器官の構造的特徴はその機能的役割に直接的に関係しており、構造の違いが細胞の多様な生命現象を支えています。
細胞機能に関してわかっていることの多くは、特別な細胞や細胞の特別な部分(たとえば細胞小器官)を用いた実験に依存している。科学者はどのような共通技術を使って複雑な混合物から細胞や細胞小器官を単離するのか、どのようにしてこれら技術は働くのか
科学者が細胞や細胞小器官を複雑な混合物から単離する際によく使う共通技術は「細胞分画法(cell fractionation)」と呼ばれます。基本的な流れと主な方法は以下の通りです。
1. 細胞分画法の基本手順
① 細胞を物理的・化学的に破砕
- 細胞をホモジナイザーやガラスビーズ、超音波、界面活性剤などを用いて壊し、細胞内容物を遊離させます。
- 温度や緩衝液の条件を最適化し、目的の小器官が損傷しないように行います。
② 分画(遠心分離)
- 細胞破砕液を遠心分離にかけ、遠心力の強さや時間を変えて段階的に沈殿させます。
- 低速(例:1,000×g):細胞核や大型細胞片が沈殿
- 中速~高速(例:10,000–20,000×g):ミトコンドリア、リソソーム、葉緑体など
- 超遠心(例:100,000×g):小胞体、小さな小胞、リボソームなど
- それぞれの段階ごとに上清と沈殿を回収することで、目的の小器官を選択的に集めます。
③ 密度勾配遠心法(更に高純度化)
2. その他の特異的分離法
- 免疫磁気分離法
- セルソーター(フローサイトメトリー)
- カラム分離やクロマトグラフィー
- 親和性や大きさ・荷電による分離も一部応用されます。
3. なぜこれらの技術が働くのか
- 各細胞小器官は密度・大きさ・表面マーカーなどが異なるため、遠心力や密度勾配、抗体などの物理化学的性質で分離が可能です。
- 遠心分離は「大きく重いものが速く沈む」という物理法則を利用し、分画条件の調節によって狙いの成分を選択できます。
- 免疫磁気分離やフローサイトメトリーは特異的認識―分離の原理(抗原抗体反応・蛍光標識)によって、混合物の中から目的の細胞やオルガネラだけを選んで単離可能です。
まとめ
- 【細胞・細胞小器官の単離】
→ 細胞分画法(破砕+多段階遠心分離)、密度勾配遠心法、免疫磁気分離、セルソーター、カラム分離などの共通技術が利用される。 - 【これらの技術は】
大きさや密度の違い・表面分子標識など「物理化学的な違い」を利用し、混合物から目的成分を効率よく分離することで機能解析や研究を可能にしている。
光学顕微鏡法も電子顕微鏡法も共通して細胞,細胞構造,特別な分子の局在を可視化するのに使われる。なぜ科学者は研究のために1種類あるいは他の顕微鏡法を使うのか説明せよ
光学顕微鏡法と電子顕微鏡法は、細胞や細胞構造、分子の局在を可視化するための代表的な方法ですが、それぞれ特徴や長所・短所が異なるため、科学者は研究目的に応じて適切な顕微鏡法を選択しています。
光学顕微鏡法の特徴と使いどころ
- 特徴
- 可視光を利用して細胞・組織・生体の構造を観察
- 生細胞や生きたままの組織を観察できる
- 染色や蛍光タンパク質、免疫染色により特定分子の局在化も可能
- 分解能は一般に約200nm程度(光の波長に制限される)
- 主な利用場面
- 細胞の全体像や組織の構造、細胞分裂などダイナミックな現象の観察
- 生細胞の挙動・形態変化・タイムラプス観察
- 蛍光顕微鏡では特定タンパク質やオルガネラの可視化に有効
- 選択理由
- 生きた細胞の動的な観察、複数サンプルの迅速な比較に強み
- 蛍光分子の特異的な標識が可能で、細胞複合体内で分子の局在を見る際に有用
電子顕微鏡法の特徴と使いどころ
- 特徴
- 電子線を用い、光学顕微鏡より桁違いに高い分解能(約0.1nm〜数nm)
- 細胞小器官・ウイルス・タンパク質複合体、超微細構造の観察に適する
- 通常、試料は固定・脱水・薄切や染色などの前処理が必要で生細胞は観察不可
- 走査型(SEM)や透過型(TEM)で三次元・断面像など多様な観察が可能
- 主な利用場面
- 細胞小器官の形態・構造解析
- 膜構造やウイルス粒子などナノスケールの詳細可視化
- 分子レベルでの局所的な分布や集合状態の解明
- 選択理由
- 細胞内オルガネラや分子複合体、ウイルスの精細なサイズ・形態解明
- 分解能を優先する必要のある実験に最適
顕微鏡法の使い分けの理由
- 研究目的と観察対象のスケールに合わせて、生細胞の動態や大まかな構造把握には「光学顕微鏡」、微細構造の詳細や分子複合体の観察には「電子顕微鏡」といったように、最も適切な方法を選択します。
- 両者を組み合わせることで、マクロからミクロまで多層的・多角的な理解が可能になります。例えば、光学顕微鏡で特徴的な細胞を検出し、電子顕微鏡でその精密な内部構造を解明するといった連携的応用も行われています。
このように、科学者は観察目的・解像度・試料の性質・情報量などを総合的に考慮して光学顕微鏡法と電子顕微鏡法を使い分けているのです。
どの顕微鏡でも倍率は大切な特性の一つであるが、非常に近い二つの物体を区別する分解能はより重要な特性である。顕微鏡でより良質な細部を観察する場合、なぜ、倍率よりも分解能のほうが大切なのか。顕微鏡レンズの分解能を表す公式は何か、またその公式の値を制限するものは何か
なぜ倍率より分解能が重要なのか
顕微鏡で「細部」を正確に観察するためには、単に像を大きくする(倍率を上げる)だけでは不十分です。
倍率をいくら高くしても、その顕微鏡の「分解能」以上に近接した細かい構造は、ぼやけて一つの像に見えてしまいます。
分解能(resolution)とは、二つの近接した点を個別に識別できる最小距離を意味します。
- 例えば、分解能が0.2μmの顕微鏡では、それより近い二点は「一つ」にしか見えません。
- 倍率が高くても、分解能が低いと「ぼけた」画像が大きくなるだけで、細部の識別は不可能です。
- より良質な細部観察には「どれだけ近い2点を見分けられるか=分解能」が重要なのです。
顕微鏡レンズの分解能を表す公式
顕微鏡の分解能(δ)は、以下の式(Abbeの式やRayleighの式)で表されます:
$$
\delta = k \frac{\lambda}{NA}
$$
- $\delta$ :分解能(2点を識別できる最短距離、単位m)
- $k$ :係数。一般に0.61や0.5(光学条件による)
- $\lambda$ :光の波長(nm, µmなど。可視光で約400~700nm)
- $NA$ :開口数(Numerical Aperture):レンズと試料の間の媒質の屈折率とレンズの集光角で決まる
具体例:
可視光($\lambda = 550\text{nm}$)、$NA = 1.4$ の場合
$$
\delta = 0.5 \times \frac{550}{1.4} = 196\ \mathrm{nm}
$$
公式の値を制限するもの
- 主な制限要因
- 光の波長(短いほど分解能が上がる。可視光では理論的に約200nmが限界)
- レンズの開口数(NA)(大きいほど分解能が上がる)
- 媒質の屈折率(水や油を使った場合、NAは大きくなりうる)
- レンズの設計や品質(収差)・結像条件
- 物理的限界
まとめ:
倍率より分解能が大事なのは、「細かい構造を確実に識別できる能力」を決めるのが分解能だからです。
分解能は「波長」と「開口数」で決まり、物理法則によりその値に明確な限界が存在します。倍率をいくら上げても分解能を超えて細かい構造を観察することはできません。
基本的な光学頭微鏡で細胞や組織を観察するために、なぜ、化学染色が必要なのか。光学顕微鏡観察のために試料染色する化学染色剤と比較して、蛍光色素と蛍光顕微鏡法はどのような長所があるか。通常の蛍光顕微鏡法に比較して,共焦点顕微鏡法やデコンボリューション顕微鏡法はどのような長所があるか
1. 基本的な光学顕微鏡観察に化学染色が必要な理由
光学顕微鏡で細胞や組織を観察する際、多くの場合そのままでは細胞内の構造や器官の違いがほとんど見分けられません。これは、細胞や組織が主に水分と透明な有機分子でできており、光の反射や吸収の差がごく小さいためです。
- 化学染色を行うことで、核や小器官、細胞膜など異なる細胞成分が特異的に色づき、コントラストが高まるため観察しやすくなる。
- たとえば人体組織の標準的なHE染色(ヘマトキシリン-エオジン染色)では、核が青紫色、細胞質や外側成分がピンク色に染まり、構造の違いが一目でわかるようになります。
- このため、顕微鏡での明瞭な観察・構造判別には化学染色が不可欠です。
2. 化学染色剤と比較したときの蛍光色素・蛍光顕微鏡法の長所
蛍光色素と蛍光顕微鏡法には、化学染色と比べて以下のような明確な利点があります。
- 高い感度と特異性
蛍光色素や蛍光抗体は特定分子・構造を狙って標識できるため、非常に低濃度・小さな構造でも検出可能です。 - 多重染色(マルチプレックス解析)が可能
異なる色の蛍光色素を使えば、複数のターゲットを同時に可視化でき、分子どうしの関係も一目で把握できます。 - 動態観察・生細胞イメージング
生きた細胞や生体内でリアルタイムに観察できる非破壊性があり、時間経過や動きまで観察可能です。 - 定量・解析の高度化
蛍光強度は分子量や濃度に比例し、数値で比較できるため、より定量的・解析的な研究に適しています。
3. 共焦点顕微鏡法・デコンボリューション顕微鏡法の長所(通常の蛍光顕微鏡と比較して)
共焦点顕微鏡法の長所
- 高分解能・高コントラスト
ピンホールを通過した「焦点面上だけの光」だけを検出するため、ぼやけや背景ノイズが少なく、コントラストと解像度が大幅に向上します。 - 光学断層像・3D構造取得
厚い試料でも深さごとに鮮明な断面画像が得られ、それを積み上げることで三次元像を再構築できます。 - 複数の蛍光シグナルを同時取得
複数蛍光色素の多重観察にも適し、複雑な細胞内イベントの解明に強みがあります。
デコンボリューション顕微鏡法の長所
- 画像のシャープ化・信号増強
物理的・数学的アルゴリズムでピント外のぼやけを計算除去し、広視野顕微鏡像からでも鮮明な高コントラスト画像が得られる。 - 微弱な蛍光信号の有効利用
非常に弱い信号でも情報を最大限抽出できるため、感度が大きく向上します。 - 既存データにも適用可能
ソフトウェア処理のため、撮影済みの画像にも後から処理可能。
まとめ表
比較対象 | 特徴・長所 |
---|---|
化学染色 | シンプル・安価だがコントラスト向上のため不可欠、生細胞観察は不可 |
蛍光顕微鏡 | 高感度・高特異性・多重解析・生細胞リアルタイム観察が可能 |
共焦点顕微鏡 | 3D構造像・背景低減・高分解能、厚い標本も鮮明 |
デコンボリューション | 計算処理で鮮明画像・信号増強・既存画像にも適用可能 |
要点として:
- 光学顕微鏡観察では化学染色でコントラストを付けることが不可欠。
- 蛍光色素と蛍光顕微鏡(、とくに共焦点・デコンボリューション法)は、分子標的の特異的・多重検出や三次元構造観察、定量性にきわめて優れるという長所があります。
ある種の電子顕微鏡法では、試料は直接は画像化されない。 これら方法ではどのように細胞構造の情報をどのように提供しているのか、どのようなタイプの構造を可視化するのか
電子顕微鏡には、試料を直接二次元画像として観察する方法だけでなく、「間接的」に構造情報を得る手法もあります。こうした方法では、観察される像が一枚の画像として直接形成されるのではなく、複数の視点や計算処理、再構成技術を通じて、試料内部の立体構造や分子レベルの情報が提供されます。
どのようにして細胞構造の情報を提供するか
1. 電子トモグラフィー(Electron Tomography, ET)
- 試料を電子顕微鏡内で数度ずつ傾け、さまざまな角度から投影画像(2D像)を多数取得します。
- 取得した一連の2D画像(チルトシリーズ)をコンピュータで三次元再構成(トモグラフィー再構成)し、3D構造データとして可視化します。
- これにより、細胞やオルガネラ、ウイルス粒子、巨大分子複合体など、nmスケールの「三次元的な存在/配置/関係性」が明らかになります。
2. クライオ電子顕微鏡法(Cryo-EM)とその特殊版
- 試料(細胞や分子複合体)を急速凍結(凍結ガラス化)し、氷結したまま観察します。これにより、ほぼ生体そのままの構造を保持可能。
- クライオ-単粒子解析(single particle analysis)は、多数の同じ分子の2D像を集め、計算的に重ね合わせて高分解能三次元構造を再構築します(個々の分子は必ずしも像内では“直接”見えません)。
- クライオ電子トモグラフィー(cryo-ET)は、細胞やオルガネラなど複雑な内部構造の「空間的配置パターン」や、in situの巨大分子複合体ネットワークなどを3Dで解析できます。
3. 凍結割断レプリカ法や間接的相関法
- 例:凍結割断TEM(freeze-fracture TEM)は、氷結した試料を物理的に割り、その断面をレプリカして観察。直接像ではなく、物質の分布や膜構造の違いを間接的に画像化します。
- 相関顕微鏡法(CLEM, correlative light and electron microscopy)は、蛍光顕微鏡像・電子顕微鏡像など複数手法を組み合わせ、同一または対応する位置情報を間接的に結びつけて解析します。
どんなタイプの構造が可視化されるのか
- 三次元形態:細胞やオルガネラ、ウイルスなどの立体形状や空間配置。
- 細胞小器官やタンパク質複合体の相互関係:細胞膜・小器官・巨大分子複合体の配置と形態。
- 特定分子のネイティブな結合状態や集合体:個々のタンパク質やその複合体が細胞内でどのように集まっているかを3D的に把握できる。
- 微細な表面構造や内部断面:凍結割断レプリカ法では、膜や表層分子などの凹凸・分布。
まとめ
- 電子トモグラフィーやクライオ電子顕微鏡などの「間接的」手法では、多視点データや統計計算による再構成によって、静的・動的な細胞構造情報を高次元・高分解能で可視化します。
- これらにより、細胞内の分子やオルガネラ、巨大分子複合体の三次元的配置、空間的ネットワーク、形態の多様性などを明らかにできます。
- 構造生物学や細胞生物学では、直接像を超えた構造の本質的理解や機能解明につながる情報が得られています。
細胞株,細胞系,クローンの違いは何か
胞株、細胞系、クローンは、細胞を研究や応用に用いる際によく使われる用語ですが、それぞれ明確な意味と違いがあります。
細胞株(Cell Line)
- 定義:ある細胞集団が長期間にわたって継続的に(継代・継養しながら)増殖し続けられるようになった状態を指します。通常、初代培養細胞(生物組織から直接得た細胞)が不死化(寿命を無限化する変化)したものを指します。
- 特徴:ある共通の由来や性質を持ちながら、遺伝的には必ずしも完全同一とは限らず、増殖能や培養適性に優れています。
- 例:HeLa細胞、HEK293細胞など。
細胞系(Cell Strain)
- 定義:同じ起源—例えば同じ個体・同じ組織—から得て、一定期間(限られた継代数のみ)培養した細胞の集団を指します。不死化していないため、ある程度の継代後には増殖を停止(老化)します。
- 特徴:採取時の個体や臓器ごとに生じるわずかな遺伝的・表現型的なばらつきが残る場合があります。
- 例:ヒト胎児線維芽細胞(WI-38セルストレイン)など。
クローン(Clone)
- 定義:厳密には、単一の細胞から分裂・増殖してできた細胞集団を指します。元となった細胞の遺伝的性質が全ての子孫細胞に伝わるため、基本的に「完全同一の遺伝情報」を持った集団です。
- 特徴:1細胞起源なので、遺伝的均一性が非常に高い。目的遺伝子導入や特定性質の固定化などにも多用されます。
- 例:モノクローナル抗体産生細胞クローンなど。
用語とその違いまとめ
用語 | 定義・起源 | 遺伝的均一性 | 増殖寿命 | 代表例・用途 |
---|---|---|---|---|
細胞株 | 継代・不死化した増殖細胞集団 | 一致しない場合が多い | 無限 or 非常に長い | HeLa、HEK293等 |
細胞系 | 一個体や一組織の培養細胞集団 | 比較的均一だが完全でない | 限定的 | WI-38線維芽細胞 |
クローン | 1細胞起源の細胞集団 | 極めて均一 | クローン株により異なる | モノクローナル抗体等 |
要点まとめ:
- 「細胞株」は基本的に“永続的に培養できる”細胞集団全体を指し、
- 「細胞系」は“不死化せず限られた回数だけ増殖できる”比較的均一な集団、
- 「クローン」は“たった1つの細胞から生じた極めて均一な細胞集団”を意味します。
研究や応用では、何を得たいかによってこれら3者を適切に使い分けます。
ある種の細胞系は筋肉や脂肪細胞の分化と機能の研究に用いられているが、その理由を説明せよ
筋肉や脂肪細胞の分化と機能の研究に「細胞系(セルストレイン)」が用いられる理由は、以下のような科学的・技術的利点があるためです。
1. 分化能力を保った均一な細胞集団である
- 特定の細胞系(例:C2C12筋芽細胞、3T3-L1前駆脂肪細胞など)は、単一の起源から樹立された比較的均一な細胞集団で、筋肉や脂肪細胞へ効率よく分化する能力を保っています。
- そのため、分化過程や分子機構を再現性よく実験でき、細胞ごとのばらつきや組織の混在によるノイズが少なくなります。
2. 分化誘導条件が確立されている
- 各細胞系は分化を誘導するための培養条件や薬剤が詳細に研究されており、in vitro(試験管内)で安定的・繰り返し分化させることが可能です。
- 例えば、3T3-L1細胞はインスリンやステロイド添加によって脂肪細胞へ確実に分化し、脂肪滴形成や代謝解析が容易です。
3. 遺伝子・分子機能解析に向いている
- 細胞系は継代や遺伝子導入・ノックダウンがしやすく、機能未知遺伝子の制御、分化転写因子やシグナル経路の働きの検証に最適です。
- ノックアウトマウス由来や変異導入細胞系を用いれば、病態モデルや創薬にも応用できます。
4. 生体内現象のモデルとして信頼性が高い
- 脂肪細胞や筋細胞は生体内での分化・肥大・機能制御のモデルとして利用され、ヒトや動物個体を用いるよりもシンプルかつ高精度の解析が実施できます。
まとめ
- 筋肉や脂肪細胞への分化能力が高く、
- 分化・機能解析の再現性・効率がよく、
- 遺伝子操作や薬剤試験などの分子生物学的実験がしやすい、
- モデルとして生体現象の解明・応用に適している、
これらの理由から、特殊な細胞系は筋肉や脂肪細胞の分化と機能の研究に幅広く用いられているのです。
研究に利用されているモノクローナル抗体を産生するために細胞融合の過程が必要である理由を説明せよ
モノクローナル抗体を産生するために細胞融合が不可欠な理由は、短命で増殖能力のない抗体産生B細胞と、無限に増殖可能だが抗体を作らないがん細胞(ミエローマ)を融合し、両者の特性(抗体産生能と無限増殖能)をあわせ持つ「ハイブリドーマ」を作り出すためです。
B細胞は特定の抗体を産生しますが、寿命が短く、体外で長期間・大量に抗体を作ることができません。一方、がん細胞は分裂・増殖を無限に繰り返しますが、抗体は産生しません。そこで両者を融合させて得られるハイブリドーマは、「1種類の抗体を安定的かつ大量に産生する能力」と「不死化した増殖能」の両方を持ちます。
この融合細胞から目的の抗体を産生するクローンを選び出し、大量培養することで、均一な特異性を持つ“モノクローナル抗体”が得られるのです。このように細胞融合の過程は、モノクローナル抗体という1種類の高純度抗体を安定して得る上で不可欠な工程です。
コメント