- 細胞周期が一方向に不可逆的に進行するのを確実にしているのは何か。その分子機構は何か。
- S期の細胞と融合したとき、準備が整わないうちにDNA複製が始まってしまうのは、G1期、G2期、M期のどの細胞か。G1期とG2期の細胞を融合したとき、それぞれの細胞でS 期のタイミングはどのような影響を受けるか予想せよ。
- 2001年のノーベル賞を共同受賞した Tim Hunt は、卵や胚からサイクリンを発見し、その解析を行ったことが認められた。細胞が分裂期に入るのにサイクリンBを必要とするという実験的証拠は何か。分裂期から抜け出すには、サイクリンBの分解が必要だという証拠は何か。
- アフリカツメガエルでは、MPFの基の一つがCdc25ホスファターゼである。MPFでリン酸化されると Cdc25は活性化される。Cdc25の基質は何か。このことから、細胞が分裂期に入ると生じる MPF活性の急激な上昇はどのようにして説明できるか。
- 2001年のノーベル医学生理学賞は3人の細胞周期研究者に授与された。Paul Nurseは、分裂酵母S.pombeの研究、特にwee1遺伝子の発見とその解析に関する業績が認められた。wee表現型というのはどのようなものか。wee1遺伝子の解析から細胞周期制御についてどんなことがわかるのか。
- MPFかMPFで制御されるキナーゼの三つの既知の基質として、核ラミン、ヌクレオポリン、コンデンシンサブユニットがある。これらタンパク質のリン酸化で、それぞれの機能がどのように変わり、有糸分裂の進行にどのような影響を与えるか述べよ。
- 有糸分裂後期に、APC/Cが姉妹染色分体の分離を促すにあたってどのようなことが起こるか、述べよ。
- 終期の終わりに、小胞体からの核膜の伸長は各染体と融合し、カリオメアを形成し、次に娘細胞の核を形成する。この過程におけるRan-GEF およびRan・GTP の役割は何か。
- CDK 活性が次のタンパク質によってどのように制されるか述べよ。(a)サイクリン、(b)CAK、 (c) Wee1、(d) p21。
- 細胞周期制の一般的特徴は、ある段階で起こる事象が次の段階へ進むことを保証しているということである。出芽酵母では、G1中期および後期サイクリンーCDK がG1期進行を触媒し、複数のB型サイクリンーCDK 複合体がS期、G2期、M期の進行を触媒する。中期およびG1後期サイクリンーCDKの活性がS期および分裂サイクリンーCDKの活性化を促進する三つの方法をあげよ。
- S期が時間通りに終了するよう、真核生物の多数の複製起点からDNA複製が開始される。出芽酵母では、1回の細胞周期で全ゲノムが1回だけ複製されるような機構が働いているが、ここでのS期サイクリン-CDK複合体の役割は何か。
- 制限点の機能的な定義は何か。がん細胞はふつう制限点制御を失っている。いくつかのがん細胞でみられる次のような変異の結果、どうして制限点制御がきかなくなるか説明せよ。(a)サイクリンDの過剰発現、(b)Rb機能の喪失、(c)v-Fosやv-Junをコードしているレトロウイルスの感染。
- Rb タンパク質は細胞周期の“マスターブレーキ”とよばれている。Rbタンパク質がどのように細胞周期を停止させるか述べよ。細胞がS期に進行するために、G1期の中期から後期にこのブレーキはどのように外されるのか。
- 2001年ノーベル賞の3番目の受賞者であるLeeland Hartwellは、出芽酵母S.cerevisiaeの細胞周期チェックポイントの研究が認められた。細胞周期チェックポイントとは何か。細胞周期のどこでチェックポイントが働くのか。ゲノム情報の正確な伝達を保証するため、細胞周期チェックポイントはどのように役立っているか。
- DNA 損傷の細胞を細胞周期停止に導くときのp53の果たす役割は何か。
- 遺伝病である毛細血管拡張運動失調症(ataxia telangiectasia)を発症すると、神経変性、免疫不全、そしてがん発症率の上昇が起こる。この遺伝病は、ATM (ataxia telangiectasia-mutated)遺伝子の機能喪失型変異に由来する。pS3のほかに、ATMによってリン酸化される基質は何か。これらの基質のリン酸化がCDKの不活性化をもたらし、細胞周期がチェックポイントで休止するのはどうしてか。
- 減数分裂と体細胞分裂は、多数の共通のタンパク質が関与する全体的に類似した過程である。しかし、いくつかのタンパク質がこの細胞分裂過程で特有に働いている。次のタンパク質の減数分裂に特異的な機能は何か。(a)Ime2、(b)Rec8、(c)モノポリン。
細胞周期が一方向に不可逆的に進行するのを確実にしているのは何か。その分子機構は何か。
確実にしているもの:サイクリンの「タンパク質分解」
細胞周期が一方向にしか進まない(不可逆である)ことを保証する最大の要因は、細胞周期の進行役であるサイクリン(Cyclin)が、特定のタイミングでユビキチン-プロテアソーム系によって速やかに破壊(分解)されることです。
一度分解されたタンパク質は元に戻らないため、細胞周期の時計を「逆回し」にすることはできず、必ず次の段階へ進むしかなくなります。これを「不可逆的(irreversible)なスイッチ」と呼びます。
分子機構:なぜ「分解」が不可逆性を生むのか
1) サイクリンとCDKの役割(エンジンの基本)
細胞周期を回すエンジンは、CDK(サイクリン依存性キナーゼ)という酵素です。
- CDK(Cyclin-Dependent Kinase):単独では働かず、サイクリンと結合して初めて活性化し、標的タンパク質をリン酸化して次のステージへ進める「エンジン本体」。
- サイクリン:CDKにくっついてスイッチを入れる「鍵」。周期の段階ごとに(G1期用、S期用、M期用など)作られては壊されます。
2) 不可逆性を生む「分解」のしくみ(APC/CとSCF)
細胞周期には「後戻りできないポイント(遷移点)」がいくつかありますが、特に重要なのが M期からG1期への出口 と G1期からS期への入り口 です。ここで特定のユビキチンリガーゼが働きます。
- APC/C(Anaphase-Promoting Complex/Cyclosome)
- SCF複合体
- 役割:G1/S期の移行などで働き、CDK阻害タンパク質(CKI)などを分解してS期への進行を決定づけます。
3) なぜ「リン酸化」だけではダメなのか
タンパク質の機能を制御する方法には「リン酸化(スイッチON/OFF)」もありますが、これは脱リン酸化酵素によって可逆的(元に戻せる)です。一方、「タンパク質分解」は分子そのものを破壊するため、新たに合成し直さない限り復活しません。この「破壊によるリセット」こそが、細胞周期を一方通行にする物理的な基盤です。
まとめ
細胞周期が一方向に進むのは、各段階を支配するサイクリンが、役割を終えた直後にユビキチン依存的に分解されるからです。この「分子の破壊」は元に戻せないため、細胞は後ろ(前の周期)に戻ることなく、次のサイクリンが蓄積する前方(次のステージ)へ進むしかありません。
S期の細胞と融合したとき、準備が整わないうちにDNA複製が始まってしまうのは、G1期、G2期、M期のどの細胞か。G1期とG2期の細胞を融合したとき、それぞれの細胞でS 期のタイミングはどのような影響を受けるか予想せよ。
S期細胞との融合:G1期細胞が影響を受ける
S期の細胞と融合したとき、準備不足のままDNA複製が開始されるのは「G1期の細胞」です。
- 現象:S期の細胞質には、G1期細胞にDNA複製を開始させる強力な「S期促進因子(SPF: S-phase Promoting Factor)」(現在はCDK2-サイクリンE/A複合体などが知られる)が含まれています。
- 結果:融合すると、G1期の核はこの因子に刺激され、自身の準備(細胞サイズや資材)がまだ整っていなくても、強制的にDNA複製を開始させられてしまいます。
- G2期の場合:G2期の細胞はすでにDNA複製を終えているため、S期細胞と融合しても「再複製ブロック機構(ライセンシング制御)」が働いており、再度複製が始まることはありません。
G1期とG2期の細胞を融合したときの予想
G1期の細胞とG2期の細胞を融合しても、互いのS期タイミングに大きな影響は及ぼしません(またはG1期側がやや遅れる程度で、劇的な変化はありません)。
- G1期側の核:G2期の細胞質には、DNA複製を誘導する「S期促進因子」が存在しません(すでに分解されているか不活性化しているため)。したがって、G1期核はすぐにS期に入ることはなく、通常のスケジュール通り自身の準備が整うまでG1期を続けます。
- G2期側の核:G1期の細胞質には、M期への進行を止めるような強い抑制因子も促進因子も支配的ではないため、自身のタイミング(M期促進因子が蓄積するまで)を待ちます。
- 結論:S期のような「強制的な誘導」は起こらず、それぞれの核はほぼ独立したスケジュールで進行する(またはG2側のM期入りがG1側の因子によって少し遅延する可能性がある)と予想されます。
2001年のノーベル賞を共同受賞した Tim Hunt は、卵や胚からサイクリンを発見し、その解析を行ったことが認められた。細胞が分裂期に入るのにサイクリンBを必要とするという実験的証拠は何か。分裂期から抜け出すには、サイクリンBの分解が必要だという証拠は何か。
1. 分裂期に入るのに「サイクリンBが必要」という証拠
この事実を証明する実験的証拠は、主にカエルの卵抽出液や遺伝子改変マウスを用いた実験から得られています。
- サイクリンBを除去する実験(必要性の証明)
カエルの卵から細胞質を取り出して作った「卵抽出液」において、サイクリンBのmRNAをRNase(RNA分解酵素)で選択的に分解して除去すると、その抽出液中の核は分裂期(M期)に入らなくなります。しかし、そこに外部から合成したサイクリンBのmRNAを加えると、再び分裂期への進行が回復します。
このことから、サイクリンBがM期開始の「必須因子」であることがわかります。 - サイクリンBノックアウトマウスの実験
サイクリンB1遺伝子を欠損させたマウス(Cyclin B1−/−)の胚は、発生のごく初期で停止し、正常な分裂期に入ることができません。これにサイクリンB1のmRNAを注入すると分裂が再開することからも、その必要性が証明されています。
2. 分裂期から抜け出すには「サイクリンBの分解が必要」という証拠
M期の終了(出口)にサイクリンBの分解が不可欠であることは、「分解できないサイクリンB」を用いた実験で証明されました。
- 「分解されないサイクリンB」を用いた実験
サイクリンBには、ユビキチン分解の目印となる「破壊ボックス(Destruction box)」というアミノ酸配列があります。この部分を変異させて分解されなくした(安定化させた)サイクリンBを細胞や卵抽出液に導入すると、細胞は分裂期(M期)に入りますが、M期から出ることができず、後期(anaphase)や終期(telophase)の状態で停止してしまいます。 - 結論
細胞がM期を完了してG1期に戻る(分裂期を脱出する)ためには、サイクリンBが破壊されてCDK活性が低下することが「必須条件」であると証明されました。
アフリカツメガエルでは、MPFの基の一つがCdc25ホスファターゼである。MPFでリン酸化されると Cdc25は活性化される。Cdc25の基質は何か。このことから、細胞が分裂期に入ると生じる MPF活性の急激な上昇はどのようにして説明できるか。
Cdc25の基質:不活性型MPF(リン酸化されたCdk1)
Cdc25ホスファターゼの基質は、不活性な状態にあるMPF(Cdk1-サイクリンB複合体)そのものです。
具体的には、Cdk1の特定の部位(Thr14とTyr15)に付加されている「抑制的リン酸化(ブレーキ役のリン酸基)」をCdc25が取り除く(脱リン酸化する)ことで、MPFを一気に活性化させます。
MPF活性の急激な上昇メカニズム:正のフィードバックループ
細胞が分裂期に入るとMPF活性が爆発的に上昇するのは、「正のフィードバックループ(Positive Feedback Loop)」が形成されるからです。
- 初期着火:ごく少量の活性化MPFが生じると、それがCdc25をリン酸化して活性化します。
- 増幅:活性化したCdc25は、周囲の「不活性型MPF(Pre-MPF)」から抑制リン酸基を外し、次々と活性型MPFへ変換します。
- 連鎖反応:新しくできた活性型MPFがさらに多くのCdc25を活性化し、それがまたMPFを活性化する……という連鎖が瞬時に起こります。
同時に、MPFは自身を不活性化する酵素(Wee1キナーゼ)をリン酸化して阻害するため、ブレーキが壊れアクセル全開の状態になります。 この二重の増幅回路により、MPF活性は指数関数的に急上昇し、細胞を一気に分裂期へと突入させます。
2001年のノーベル医学生理学賞は3人の細胞周期研究者に授与された。Paul Nurseは、分裂酵母S.pombeの研究、特にwee1遺伝子の発見とその解析に関する業績が認められた。wee表現型というのはどのようなものか。wee1遺伝子の解析から細胞周期制御についてどんなことがわかるのか。
wee表現型とは(定義)
wee表現型とは、「通常より小さなサイズで細胞分裂してしまう」表現型のことです。
- 語源:スコットランドの方言で「小さい(wee)」を意味する言葉から名付けられました。
- 特徴:野生型の分裂酵母(S. pombe)は、ある一定の大きさ(細胞長)に達するまで成長してから分裂期(M期)に入ります。しかし、wee1変異体(機能欠損株)は、十分に成長する前の「小さな状態」で早まって分裂を開始してしまいます。
wee1遺伝子の解析からわかる細胞周期制御の仕組み
1) 細胞には「サイズを測るブレーキ」がある
Wee1タンパク質(Wee1キナーゼ)は、「細胞が十分な大きさになるまでM期に入らせないブレーキ」として機能しています。
- 正常な細胞では、成長して準備が整うまでWee1が活性化しており、細胞分裂のマスターキーであるCdk1(Cdc2)をリン酸化して不活性化(オフの状態)に保っています。
- これにより、未熟な細胞が誤って分裂するのを防いでいます(G2/M期チェックポイントの一部)。
2) 細胞周期は「正と負の因子のバランス」で決まる
Wee1遺伝子の解析により、細胞周期の進行は促進因子(アクセル:Cdc25など)と抑制因子(ブレーキ:Wee1)の競合バランスで制御されていることが明らかになりました。
- Wee1の機能:Cdk1にリン酸基(抑制的リン酸化)をつけてブレーキをかける。
- Cdc25の機能:そのリン酸基を外してアクセルを踏む。
- この拮抗関係により、細胞は「今分裂すべきか、まだ成長すべきか」を厳密に決定しています。
3) 結論
Wee1遺伝子の発見は、「細胞周期のタイミング制御(Timing Control)」という概念を確立しました。つまり、細胞は単に連続して反応を進めるだけでなく、「チェックポイント(サイズやDNAの状態)」を監視し、条件を満たすまで進行を物理的にブロックする分子機構(キナーゼによるリン酸化スイッチ)を持っていることがわかったのです。
MPFかMPFで制御されるキナーゼの三つの既知の基質として、核ラミン、ヌクレオポリン、コンデンシンサブユニットがある。これらタンパク質のリン酸化で、それぞれの機能がどのように変わり、有糸分裂の進行にどのような影響を与えるか述べよ。
核ラミン(Nuclear Lamin)
- 機能の変化:MPFによってリン酸化されると、ラミン分子同士の結合が弱まり、ラミン重合体がバラバラ(脱重合)になります。
- 有糸分裂への影響:核膜の裏打ち構造である核ラミナが崩壊することで核膜崩壊(Nuclear Envelope Breakdown: NEBD)が引き起こされます。これにより、細胞質にある微小管が染色体にアクセスできるようになり、紡錘体形成が可能になります。
ヌクレオポリン(Nucleoporin)
- 機能の変化:ヌクレオポリン(特にNup98やNup53などのリンカーNup)がMPF(およびPlk1など)によりリン酸化されると、核膜孔複合体(NPC)を構成するサブコンプレックス間の相互作用が外れ、複合体が解体されます。
- 有糸分裂への影響:核膜孔が分解されることで核膜のバリア機能が消失し、核と細胞質が一体化します。これにより、サイクリンBなどの核内への急速な移行や、紡錘体微小管と染色体の結合が物理的に可能になります。
コンデンシンサブユニット(Condensin Subunit)
- 機能の変化:コンデンシン(特に非SMCサブユニット)がMPFによってリン酸化されると、そのDNAスーパーコイリング活性(DNAを巻き取る力)が上昇し、染色体への結合能が高まります。
- 有糸分裂への影響:クロマチン繊維が強力に凝縮されて有糸分裂染色体(Mitotic Chromosome)が形成されます。これにより、長く絡まりやすいDNAがコンパクトにまとまり、姉妹染色分体を物理的に分離・分配できる状態になります。
有糸分裂後期に、APC/Cが姉妹染色分体の分離を促すにあたってどのようなことが起こるか、述べよ。
有糸分裂後期(Anaphase)において、APC/C(Anaphase-Promoting Complex/Cyclosome)が姉妹染色分体を分離させるプロセスは、以下のドミノ倒しのような連鎖反応で説明されます。
1. セキュリンの分解
- 開始:APC/Cは、補助因子Cdc20と結合して活性化し、セキュリン(Securin)というタンパク質にユビキチン鎖(分解の目印)を付けます。
- 結果:セキュリンはプロテアソームで速やかに分解されます。
2. セパラーゼの活性化
- 通常の状態:セキュリンは、セパラーゼ(Separase)というタンパク質分解酵素に結合し、その働きを抑える「阻害役」をしています。
- 変化:セキュリンが分解されると、セパラーゼは自由になり、酵素活性を取り戻します(活性化)。
3. コヒーシンの切断
- 作用:活性化したセパラーゼは、姉妹染色分体をつなぎとめている接着剤のようなタンパク質複合体コヒーシン(Cohesin)のサブユニット(Scc1/Rad21)を特異的に切断します。
- 結果:コヒーシンのリング構造が開いて接着力が失われます。
4. 姉妹染色分体の分離
- 最終結果:接着が外れた瞬間、両極から紡錘体微小管によって引っ張られていた姉妹染色分体は、ゴムが弾けるように一斉に反対極へと移動を開始します。これが後期の開始です。
終期の終わりに、小胞体からの核膜の伸長は各染体と融合し、カリオメアを形成し、次に娘細胞の核を形成する。この過程におけるRan-GEF およびRan・GTP の役割は何か。
概要:クロマチン周辺での「Ran-GTP雲」の形成
終期において、Ran-GEF(別名RCC1)とRan・GTPは、染色体の周囲に「活性型のRan-GTPが高濃度で存在する局所的な環境(Ran-GTP勾配)」を作り出し、核膜成分を正しい位置に呼び寄せるナビゲーターの役割を果たします。
具体的な役割のメカニズム
- Ran-GEF(RCC1)の局在
Ran-GEF(RCC1)は常にクロマチン(染色体)に結合しています。終期においても染色体上に留まり、周囲の不活性型Ran(Ran-GDP)を活性型(Ran-GTP)に変換し続けます。 - Ran・GTPの機能:インポーチンβからの解放
核膜の前駆体(小胞体断片やヌクレオポリンなど)は、細胞質中ではインポーチンβ(Importin β)というタンパク質によって覆われ、勝手に重合しないように阻害されています。
染色体付近で作られた高濃度のRan・GTPは、このインポーチンβに結合して構造を変化させ、積み荷である核膜形成因子を染色体のすぐそばで「解放(リリース)」させます。 - 核膜の融合と形成
解放された核膜成分は、その場にある染色体表面に特異的に結合・融合し、小胞体網から新しい核膜(カリオメア)を形成します。
つまり、Ran-GEFは染色体という「場所」を指定し、Ran・GTPはその合図を受け取って核膜の材料を「現場でのみ使える状態にする」スイッチとして機能することで、染色体の周りにだけ正確に核膜ができるよう制御しています。
CDK 活性が次のタンパク質によってどのように制されるか述べよ。(a)サイクリン、(b)CAK、 (c) Wee1、(d) p21。
(a) サイクリン(Cyclin)による制御:活性化のスイッチ
- 役割:CDK(サイクリン依存性キナーゼ)の必須のパートナーとして機能します。
- 制御:CDK単体では酵素活性がほぼゼロですが、サイクリンが結合するとCDKの構造が変化して活性部位が開き、基質をリン酸化できる「活性型」になります。また、サイクリンの種類(A, B, D, E)によって、CDKがターゲットとする基質の種類や働く時期が決定されます。
(b) CAK(CDK-Activating Kinase)による制御:完全活性化への後押し
- 役割:サイクリンと結合したCDKをリン酸化して、「完全な活性状態」にします。
- 制御:CAKはCDKの活性化ループ(Tループ)にある特定のアミノ酸(スレオニン161など)をリン酸化します。この修飾により、基質が結合しやすくなり、CDKの酵素活性が最大になります。サイクリン結合だけでは不十分な活性を補完するステップです。
(c) Wee1キナーゼによる制御:一時停止のブレーキ
- 役割:CDK活性を抑制(阻害)するブレーキ役の酵素です。
- 制御:Wee1は、CDKのATP結合ポケット付近にある特定のアミノ酸(チロシン15など)をリン酸化します。この「抑制的リン酸化」が入ると、ATPの配置が邪魔されて酵素反応が止まります。これにより、細胞が十分なサイズに成長するまで細胞分裂(M期)への進行を一時停止させます。
(d) p21(CDK阻害タンパク質:CKI)による制御:緊急停止装置
- 役割:サイクリン-CDK複合体に直接結合して、その機能を強力に阻害します。
- 制御:p21は、DNA損傷などのストレスシグナル(p53経由など)に応答して作られます。完成したサイクリン-CDK複合体に覆いかぶさるように結合し、基質の結合やATPの利用を物理的にブロックします。これにより、G1期やG2期で細胞周期を強制停止させ、DNA修復の時間を作ります。
細胞周期制の一般的特徴は、ある段階で起こる事象が次の段階へ進むことを保証しているということである。出芽酵母では、G1中期および後期サイクリンーCDK がG1期進行を触媒し、複数のB型サイクリンーCDK 複合体がS期、G2期、M期の進行を触媒する。中期およびG1後期サイクリンーCDKの活性がS期および分裂サイクリンーCDKの活性化を促進する三つの方法をあげよ。
出芽酵母において、G1期サイクリン-CDK(Cln1,2,3-Cdk1)が、後続のS期・M期サイクリン(Clb-Cdk1)の活性化を促進する3つの主要な方法は以下の通りです。
1. Sic1(CDK阻害タンパク質)の分解誘導
- 仕組み:S期・M期サイクリン-CDK複合体は、G1期の間はSic1という阻害タンパク質が結合しているため不活性な状態(Pre-RC)で待機しています。G1期サイクリン-CDK(特にCln1/2-Cdk1)が活性化すると、このSic1を多箇所でリン酸化します。
- 結果:リン酸化されたSic1はユビキチンリガーゼ(SCFCdc4)によって認識され、プロテアソームで分解されます。これにより、S期サイクリン(Clb5,6)-CDKが解放されて一気に活性化し、DNA複製が開始されます。
2. B型サイクリン遺伝子の転写活性化
- 仕組み:G1期サイクリン-CDKは、特定の転写因子(SBFやMBFなど)を活性化、またはその抑制因子を不活性化します。
- 結果:これにより、S期サイクリン(Clb5,6)やM期サイクリン(Clb1-4)の遺伝子転写が促進されます。つまり、G1期サイクリンは「次の段階に必要なエンジンの部品(B型サイクリン)」の生産スイッチを入れる役割を果たします。
3. APC/CCdh1 の不活性化によるサイクリン分解の停止
- 仕組み:G1期初期には、APC/C(Cdh1結合型)という酵素がB型サイクリン(Clb)を分解し続けており、B型サイクリン濃度を低く抑えています。G1期サイクリン-CDKが蓄積すると、APC/Cの活性化因子であるCdh1をリン酸化します。
- 結果:リン酸化されたCdh1はAPC/Cから解離して不活性化します。これにより「B型サイクリンの分解」がストップし、新しく合成されたB型サイクリンが安定して蓄積できるようになり、S期・M期への進行が可能になります。
S期が時間通りに終了するよう、真核生物の多数の複製起点からDNA複製が開始される。出芽酵母では、1回の細胞周期で全ゲノムが1回だけ複製されるような機構が働いているが、ここでのS期サイクリン-CDK複合体の役割は何か。
S期サイクリン-CDK複合体の役割:複製の「開始」と「再開始の阻止」
出芽酵母において、S期サイクリン-CDK複合体(Clb5/6-Cdk1など)は、DNA複製を一回だけに制限するために、「複製のスイッチを入れる(Firing)」役割と、「次のライセンス化を禁止する(Inhibition)」役割の2つを同時に果たしています。
1. 複製起点の発火(Firing)の促進
- 仕組み:G1期に形成された複製前複合体(pre-RC:ライセンス化された起点)に対して、S期CDKはSld2やSld3というタンパク質をリン酸化します。
- 結果:これにより、DNAポリメラーゼなどの複製装置が起点に呼び込まれ、実際にDNA合成がスタート(発火)します。
2. 再ライセンス化の阻止(Inhibition)
- 仕組み:一度複製が始まると、S期CDK(および後のM期CDK)はライセンス化因子(Cdc6, Orc, Mcmなど)をリン酸化します。
- 結果:これにより、S期からM期が終わるまでの間、新しい複製前複合体(pre-RC)が形成されることが物理的に不可能になります。
結論:一度だけ複製する仕組み(Once-per-cell-cycle)
S期CDKは、「複製を開始させる」と同時に「次の準備(ライセンス化)を不可能にする」という二重の制御を行うことで、「S期に入ったら複製するが、S期中やG2期にもう一度複製することは絶対にできない」状態を作り出し、ゲノムが細胞周期あたり正確に1回だけ複製されることを保証しています。
制限点の機能的な定義は何か。がん細胞はふつう制限点制御を失っている。いくつかのがん細胞でみられる次のような変異の結果、どうして制限点制御がきかなくなるか説明せよ。(a)サイクリンDの過剰発現、(b)Rb機能の喪失、(c)v-Fosやv-Junをコードしているレトロウイルスの感染。
制限点(Restriction Point)の機能的定義
制限点(R点)とは、細胞周期のG1期に存在するチェックポイントで、「細胞が増殖因子(外部シグナル)に依存せずに自律的に細胞周期を完遂できるようになる不可逆的な転換点」のことです。
この点を通過するまでは外部からの増殖因子が必要ですが、通過後は増殖因子を除去してもDNA複製(S期)へと進行し、分裂まで止まることなく進みます。
がん細胞における変異と制限点制御の喪失
(a) サイクリンDの過剰発現
- メカニズム:サイクリンDはG1期の進行を開始させるエンジン(Cdk4/6)の鍵です。これが過剰にあると、外部からの増殖シグナルがなくても常にCdk4/6が活性化状態になります。
- 結果:活性化したCdk4/6-サイクリンD複合体は、Rbタンパク質を強制的にリン酸化して不活性化します。これにより、増殖因子の有無に関係なく制限点を勝手に突破してしまい、無秩序な増殖が始まります。
(b) Rb(Retinoblastoma)機能の喪失
- メカニズム:Rbタンパク質の正常な機能は、転写因子E2Fを捕まえてその働きを抑制(ブロック)することです。
- 結果:Rbが変異や欠損で機能を失うと、E2Fが常にフリーの状態になります。E2FはS期に必要な遺伝子群(サイクリンEやDNA合成酵素など)を勝手に転写し続けるため、ブレーキが存在しない状態となり、細胞はシグナルなしで自動的にS期へ突入してしまいます。
(c) v-Fosやv-Junをコードしているレトロウイルスの感染
- メカニズム:FosやJunは、増殖シグナルに応答して働く転写因子(AP-1複合体)の構成成分です。レトロウイルスが持ち込むv-Fosやv-Junは、正常な制御を受けない「常に活性化した状態」の変異型タンパク質を作ります。
- 結果:これらが細胞内で大量に作られると、本来は増殖因子が来た時だけ作られるはずの「サイクリンD」などの遺伝子転写が、シグナルなしで永続的に促進されます(aの状態と同じになる)。その結果、Rbのリン酸化とE2Fの解放が起こり、制限点制御が無効化されます。
Rb タンパク質は細胞周期の“マスターブレーキ”とよばれている。Rbタンパク質がどのように細胞周期を停止させるか述べよ。細胞がS期に進行するために、G1期の中期から後期にこのブレーキはどのように外されるのか。
Rbタンパク質による細胞周期停止機構(ブレーキのしくみ)
Rbタンパク質(Retinoblastoma protein)は、細胞周期を進行させる重要な転写因子であるE2Fに強力に結合し、その活性を抑制することでブレーキとして働きます。
- 具体的な作用:活性型のRbは非リン酸化状態(または低リン酸化状態)で存在し、E2Fを抱え込んで複合体を作ります。この状態では、E2FはDNA複製や細胞周期進行に必要な遺伝子群(サイクリンE、DNAポリメラーゼなど)の転写を開始できません。さらに、Rbはクロマチン構造を凝縮させる酵素(HDACなど)を呼び寄せ、標的遺伝子を読み取れないように固く閉じる役割も担います。
- 結果:これにより、細胞はG1期に留まり続け、S期への進行が物理的にブロックされます(G1停止)。
ブレーキが外れるメカニズム(G1期中期〜後期の解除)
細胞が外部からの増殖シグナルを受け取ると、ブレーキ解除のプロセスが始まります。鍵となるのは「Rbの段階的なリン酸化」です。
- 初期リン酸化(予備的解除)
増殖シグナルによりG1期サイクリン(サイクリンD)が合成され、Cdk4/6-サイクリンD複合体が活性化します。これがRbを部分的にリン酸化(低リン酸化)しますが、まだE2Fは完全には解放されません。 - 追加リン酸化(完全解除)
上記の反応でE2Fがわずかに活性化してサイクリンEが作られると、Cdk2-サイクリンE複合体が形成されます。この複合体がRbをさらに激しくリン酸化(過リン酸化)します。 - E2Fの解放とS期突入
過リン酸化されたRbは立体構造が大きく変わり、もはやE2Fを捕まえておくことができずに解離します。自由になったE2Fは、S期に必要な遺伝子群を一気に転写させ、細胞は不可逆的にS期へと突入します。
つまり、Rbというブレーキは、「増殖シグナル依存的なキナーゼ(Cdk)によるリン酸化」によって無効化され、外されるのです。
2001年ノーベル賞の3番目の受賞者であるLeeland Hartwellは、出芽酵母S.cerevisiaeの細胞周期チェックポイントの研究が認められた。細胞周期チェックポイントとは何か。細胞周期のどこでチェックポイントが働くのか。ゲノム情報の正確な伝達を保証するため、細胞周期チェックポイントはどのように役立っているか。
細胞周期チェックポイントとは(定義)
細胞周期チェックポイントとは、「細胞が次のステージに進む前に、完了すべき作業が正しく終わっているか、あるいはDNAに異常がないかを確認(監視)し、問題があれば修復が完了するまで進行を一時停止させる制御機構」のことです。
Hartwellはこれを、細胞周期という時計がただ回るだけでなく、外部からの監視によって止められる性質を持つことから「チェックポイント」と名付けました。
働く場所(タイミング)
チェックポイントは主に以下の3つの重要な移行期で働きます。
- G1/Sチェックポイント(StartまたはRestriction Point)
- 監視内容:細胞サイズは十分か、栄養はあるか、DNAに損傷はないか。
- 目的:DNA複製(S期)を開始してもよいか判断します。
- G2/Mチェックポイント
- 監視内容:DNA複製は完了したか、複製エラーや損傷はないか。
- 目的:分裂期(M期)に入ってもよいか判断します。
- M期チェックポイント(Spindle Assembly Checkpoint)
- 監視内容:すべての染色体が紡錘体微小管に正しく結合し、赤道面に整列しているか。
- 目的:染色分体の分離(後期)を開始してもよいか判断します。
ゲノム情報の正確な伝達への貢献
チェックポイントは、「不完全な状態での進行を物理的に止める」ことでゲノムの安定性を守っています。
- 損傷の修復:DNA損傷が見つかれば、G1やG2で停止させ、その間に修復酵素が働く時間を稼ぎます。これにより、変異が娘細胞に受け継がれるのを防ぎます(がん化防止)。
- 分配ミスの防止:染色体の整列が完了するまでM期を延長させることで、染色体の不分離(異数性)を防ぎ、正しい数の染色体を娘細胞に配ります。
もしチェックポイントが機能しないと(Hartwellが発見したrad9変異体のように)、DNAが壊れたまま分裂してしまい、細胞死やがん化を引き起こします。つまり、チェックポイントは「急がば回れ」を分子レベルで実行する品質管理システムとして機能しています。
DNA 損傷の細胞を細胞周期停止に導くときのp53の果たす役割は何か。
p53の役割:転写因子としての「停止命令」の発行
p53の主な役割は、DNA損傷シグナル(ATM/ATRキナーゼ経由)を受け取って安定化・活性化し、特定の標的遺伝子(主にp21)の転写を促進することです。
停止までの具体的な流れ
- 感知と安定化
DNA損傷が起こると、ATMなどのセンサーキナーゼがp53をリン酸化します。これにより、普段p53を分解しているMdm2が結合できなくなり、p53が細胞内に急速に蓄積します。 - p21遺伝子の転写誘導
蓄積したp53は核内でDNAに結合し、CDK阻害タンパク質(CKI)であるp21(CDKN1A遺伝子)の転写を強力に誘導します。 - 細胞周期エンジンの停止
作られたp21タンパク質は、G1/S期サイクリン-CDK複合体(サイクリンE-Cdk2など)に結合してその酵素活性を阻害します。これにより、Rbタンパク質のリン酸化が阻止され、細胞はS期に入ることができずG1期で停止します(G1停止)。
なぜ停止させるのか
この停止(アレスト)の目的は、DNA修復のための時間を稼ぐことです。p53は同時にDNA修復遺伝子(GADD45など)も活性化し、修復を助けます。もし修復不可能なほど損傷が激しい場合は、p53はアポトーシス(細胞死)誘導遺伝子(BAX, PUMAなど)を活性化し、細胞ごと除去してがん化を防ぎます。
遺伝病である毛細血管拡張運動失調症(ataxia telangiectasia)を発症すると、神経変性、免疫不全、そしてがん発症率の上昇が起こる。この遺伝病は、ATM (ataxia telangiectasia-mutated)遺伝子の機能喪失型変異に由来する。pS3のほかに、ATMによってリン酸化される基質は何か。これらの基質のリン酸化がCDKの不活性化をもたらし、細胞周期がチェックポイントで休止するのはどうしてか。
p53以外のATMの基質:Chk2キナーゼ
ATMによってリン酸化されるp53以外の主要な基質は、Chk2(Checkpoint kinase 2)です。
(※注:Chk1も関連しますが、ATMの直接の主要ターゲットはChk2で、Chk1は主にATR経路で働きます。)
細胞周期が休止するメカニズム:Cdc25の阻害
Chk2(およびChk1)のリン酸化がCDKの不活性化と細胞周期停止をもたらす理由は、Cdc25ホスファターゼの機能を阻害するからです。
具体的な流れ
- ATMによる活性化
DNA二本鎖切断などの損傷が生じると、ATMが活性化し、Chk2をリン酸化して活性化します。 - Cdc25のリン酸化と不活性化
活性化したChk2は、Cdc25AやCdc25Cという酵素をリン酸化します。 - CDKの不活性化と停止
アクセルであるCdc25がいなくなると、CDK(Cdk1やCdk2)には抑制的なリン酸基が付いたままになり、不活性な状態が維持されます。その結果、細胞周期エンジンが回らなくなり、G1期、S期、またはG2期で進行がストップ(休止)します。
このように、ATM-Chk2経路は、p53を介した「転写による長期的な停止(p21誘導)」だけでなく、Cdc25を介した「酵素レベルでの急速な停止」も引き起こすことで、二重の安全装置として機能しています。
減数分裂と体細胞分裂は、多数の共通のタンパク質が関与する全体的に類似した過程である。しかし、いくつかのタンパク質がこの細胞分裂過程で特有に働いている。次のタンパク質の減数分裂に特異的な機能は何か。(a)Ime2、(b)Rec8、(c)モノポリン。
(a) Ime2(キナーゼ)
(b) Rec8(コヒーシンサブユニット)
(c) モノポリン(Monopolin)
問題文引用元:東京化学同人 分子細胞生物学 第6版


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