- 幹細胞を定義する二つの性質とは何か。全能性幹細胞、多能性幹細胞、および前駆(始原)細胞の差異を述べよ。
- 植物では幹細胞はどこにあるか。動物成体では幹細胞はどこにあるか。動物と植物の幹細胞の間で、その概念はどのように違うか。
- 1997年に、体細胞核移植(核移植クローニング)とよばれる技術によってクローンヒツジのドリー (Dolly)が生まれた。成体の乳腺細胞から採り出した核を、あらかじめ核を除去した卵に移植した。その卵を培養して数回分裂させた後に、代理母の体内に移植し、やがてドリーが生まれた。ドリーは交尾して生存可能な仔を産み、2003年に死亡した。ドリーが生まれたことから、完全に分化した成体細胞に由来する核の潜在能力に関して何がいえるか.ドリーがつくられたことから、完全に分化した成体親細胞の潜在能力について何がいえるか。細胞種を維持するのに働く3種類の情報の名称をあげよ。ドリーの実験で可逆的であることが示されたのは、このうちのどの情報か。
- 土壌に住む線虫C. elegansは、細胞の誕生、細胞系譜および細胞死の研究の優れたモデル生物である。線虫のどのような性質が、これらの研究に非常に適したものにしているのか。線虫の実験で得られた情報が、哺乳類の発生に興味をもつ研究者に非常に多く用いられているのはなぜか。
- 細胞系譜を追跡して調べる実験で、レトロウイルスはどのように用いられるか。
- 出芽酵母における MCM1 タンパク質の役割は、次のうちのどれか。a. a細胞におけるa特異的遺伝子の転写b. a細胞におけるα特異的遺伝子の転写抑制c. α細胞におけるα特異的遺伝子の転写d. α細胞におけるa特異的遺伝子の転写抑制
- 出芽酵母において、同じ接合型の細胞どうし(aとa,またはαとα)ではなく、a細胞とα細胞が互いに接合することを保証しているのは何か。
- 具体的な保証メカニズム
- C3H 10T1/2細胞をヌクレオチドアナログである5ーアザシチジンで処理することで、筋分化のモデルをつくることができる。5-アザシチジン処理は筋分化に関与する遺伝子の単離にどのように用いられたか。
- 5-アザシチジンで処理したC3H 10T1/2 細胞に関する実験から、MyoD が筋分化を調節する重要な転写因子として同定された。一般的な分類では、MyoD はどのようなDNA結合タンパク質に属するか。 MyoD が(a)E2A、(b)MEF、(c)Id、のタンパク質と相互作用すると、その機能はどのような影響を受けるか。
- 哺乳類の筋分化およびショウジョウバエ(また、おそらく哺乳類)の神経分化を制御する機構には著しい類似点がある。ショウジョウバエの神経細胞分化において、MyoD、ミオゲニン、Id、およびE2Aと類似の機能をもつタンパク質は何か。このような類似性に基づいて、myoD mRNAをアフリカツメガエル胚に微量注入する実験を行ったときの発生への影響を予測せよ。
- 出芽酵母の母細胞と娘細胞がもつ、細胞分裂後における接合型変換の能力に対して、次の突然変異が与える影響を予測せよ。a. HO エンドクレアーゼの機能喪失型突然変異b.HOエンドヌクレアーゼ遺伝子を、SWI/SNF とは無関係に恒常的に発現させる機能獲得型突然変異c. SWI/SNF を Ash1タンパク質に対して非感受性にする機能獲得型突然変異
- 非対称細胞分裂では、細胞骨格因子に依存して細胞内因子の非対称な分布が生まれたり、維持されたりすることがしばしばある。出芽酵母でミオシンモーターによって芽体に局在化される因子は何か。ショウジョウバエの神経芽細胞では、微小管によって頂端側に局在化される因子は何か。
- ノックアウトマウスを用いた脳の発生の研究から、アボトーシスが神経細胞で自動設定された経路(デフォルト経路)であるという見解がどのように支持されるか。
- プログラム細胞死(アポトーシス)と細胞の壊死(ネクローシス)を区別する形態的な特徴は何か。TNF とFasリガンドが細胞表面受容体へ結合すると細胞死がひき起こされる。細胞死シグナルは細胞外でつくられるにもかかわらず、なぜこれらの分子で誘導される死がネクローシスではなく、アポトーシスであると考えられるのか。
- 次の突然変異が、細胞のアポトーシスを起こす能力に与える影響を予測せよ. a:プロテインキナーゼ B (PKB)によるリン酸化を受けなくなる Bad の突然変異 b:Bcl-2の過剰発現 c:ホモ二量体を形成できなくなるBax の突然変異がん細胞の一般的な特徴のひとつにアポトーシス経路の機能喪失がある。上にあげた突然変異のうちのどれが、がん細胞に見いだされると予想されるか.
- IAP(アポトーシス阻害タンパク質)は、どのようにカスパーゼと相互作用してアポトーシスを阻害するか。ミトコンドリアタンパク質は、どのようにIAPと相互作用してアポトーシスの阻害を妨げるか。
幹細胞を定義する二つの性質とは何か。全能性幹細胞、多能性幹細胞、および前駆(始原)細胞の差異を述べよ。
幹細胞を定義する二つの性質
幹細胞(stem cell)は、次の2つの能力を併せ持つ細胞として定義されます。
- 自己複製能(Self-renewal potency)
分裂して、自分と全く同じ能力(未分化な状態)を持つコピー細胞を作り出し、自身の集団を維持・拡大する能力。 - 分化能(Differentiation potency)
皮膚、血液、神経、筋肉など、特定の機能を持つさまざまな成熟細胞へと変化(分化)する能力。
全能性、多能性、前駆細胞の差異
これらの細胞は、「どのような細胞になれるか(分化の範囲)」と「自己複製できるか」という点で異なります。
1. 全能性幹細胞(Totipotent stem cell)
- 分化の範囲:あらゆる細胞になれる最強の能力を持ちます。胎児(体を作る細胞)だけでなく、胎盤などの胚体外組織も含めた、完全な一個体を作り出すことができます。
- 具体例:受精卵および受精後数回分裂したごく初期の細胞(桑実胚まで)のみがこの性質を持ちます。
2. 多能性幹細胞(Pluripotent stem cell)
- 分化の範囲:体を構成するほぼすべての細胞(内胚葉、中胚葉、外胚葉由来の細胞)に分化できますが、胎盤などの胚体外組織にはなれません。つまり、これだけでは完全な個体にはなれません。
- 自己複製能:試験管内で無限に増殖し続けることができます。
- 具体例:ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)がこれに該当します。
3. 前駆細胞(Progenitor cell / Precursor cell)
- 分化の範囲:特定の限られた種類の細胞にしか分化できません(単能性または少能性)。すでに運命がある程度決まっている細胞です。
- 自己複製能:限定的、あるいは持っていません。数回分裂して数を増やしたあと、最終的には必ず成熟細胞に分化して寿命を終えます。ここが幹細胞との決定的な違いです。
- 具体例:骨髄芽球(白血球の前駆細胞)や筋芽細胞(筋肉の前駆細胞)など、組織幹細胞から生み出され、成熟細胞になる一歩手前の細胞たちです。
| 細胞の種類 | なれる細胞の範囲 | 完全な個体になれるか? | 自己複製能 | 例 |
|---|---|---|---|---|
| 全能性幹細胞 | すべて(胚+胎盤) | はい | あり | 受精卵 |
| 多能性幹細胞 | 体のほぼすべて(胚のみ) | いいえ | あり(無限) | ES細胞、iPS細胞 |
| 前駆細胞 | 特定の種類のみ | いいえ | 限定的/なし | 筋芽細胞など |
植物では幹細胞はどこにあるか。動物成体では幹細胞はどこにあるか。動物と植物の幹細胞の間で、その概念はどのように違うか。
植物の幹細胞の場所
植物の幹細胞は、成長し続けるための特定の領域である「分裂組織(Meristem)」に存在します。
- 頂端分裂組織(Apical Meristem)
- 側方分裂組織(Lateral Meristem)
動物成体の幹細胞(組織幹細胞)の場所
動物の成体では、幹細胞は「各組織の中(ニッチ)」に散らばって存在し、その組織の細胞が死んだり傷ついたりした際の補充役として待機しています。
- 骨髄:造血幹細胞(血液を作る)
- 皮膚(毛包):表皮幹細胞、毛包幹細胞(皮膚や毛を作る)
- 小腸:腸管上皮幹細胞(腸の内壁を作る)
- 筋肉:筋衛星細胞(筋肉を作る)
- 脳:神経幹細胞(ニューロンなどを作る)
動物と植物の幹細胞の概念の違い
両者の決定的な違いは、「永続性」と「分化全能性の保持」にあります。
- 永続的な成長 vs 修復・維持
- 分化全能性の程度
1997年に、体細胞核移植(核移植クローニング)とよばれる技術によってクローンヒツジのドリー (Dolly)が生まれた。成体の乳腺細胞から採り出した核を、あらかじめ核を除去した卵に移植した。その卵を培養して数回分裂させた後に、代理母の体内に移植し、やがてドリーが生まれた。ドリーは交尾して生存可能な仔を産み、2003年に死亡した。ドリーが生まれたことから、完全に分化した成体細胞に由来する核の潜在能力に関して何がいえるか.ドリーがつくられたことから、完全に分化した成体親細胞の潜在能力について何がいえるか。細胞種を維持するのに働く3種類の情報の名称をあげよ。ドリーの実験で可逆的であることが示されたのは、このうちのどの情報か。
成体細胞核の潜在能力について
ドリーが生まれたことにより、「完全に分化した成体細胞の核であっても、すべての遺伝情報を完全に保持しており、適切な環境(卵細胞質)に戻せば再び全能性を取り戻し、完全な個体を作り出す能力(全能性)を持っている」ということが証明されました。
以前は、分化が進むと遺伝子の一部が失われたり不可逆的に変化したりすると考えられていましたが、ドリーの誕生はこの定説を覆し、「分化は不可逆ではない」ことを示しました。
細胞種を維持する3種類の情報
細胞が特定のタイプ(皮膚や肝臓など)として安定して機能し続けるためには、以下の3つのレベルの情報が維持される必要があります。
- DNA配列(遺伝情報)
A, T, G, Cの塩基配列そのもの。生物の設計図。 - エピジェネティックな情報(Epigenetic information)
DNA配列を変えずに、どの遺伝子を使ってどの遺伝子を使わないかを決める「後付けの目印」。- DNAメチル化
- ヒストン修飾
- クロマチン構造の変化など
- 転写因子の制御ネットワーク(または細胞質因子)
特定の遺伝子群を活性化し続けるタンパク質(転写因子)のフィードバックループや、細胞質内の環境。
可逆的であることが示された情報
ドリーの実験で可逆的(書き換え可能)であることが示されたのは、「エピジェネティックな情報」です。
成体の乳腺細胞では、乳腺に必要な遺伝子以外はエピジェネティックな修飾によって固く「オフ」にされていましたが、核移植によって卵細胞質に入れることで、この修飾がリセット(初期化)され、受精卵と同じ「オン」の状態に戻りました。一方で、DNA配列そのものは変化していないため、ドリーはオリジナルのヒツジと同じ遺伝情報を持つ個体となりました。
土壌に住む線虫C. elegansは、細胞の誕生、細胞系譜および細胞死の研究の優れたモデル生物である。線虫のどのような性質が、これらの研究に非常に適したものにしているのか。線虫の実験で得られた情報が、哺乳類の発生に興味をもつ研究者に非常に多く用いられているのはなぜか。
線虫が研究に適している性質
線虫(Caenorhabditis elegans)が細胞の誕生、系譜、細胞死の研究に理想的なモデルである理由は、以下の性質にあります。
- 不変の細胞系譜(Invariant Cell Lineage)
成虫の体細胞数は1031個(雌雄同体では発生過程で1090個作られ、131個が死滅して959個になる)と決まっており、どの細胞がいつ分裂してどの組織になるかという運命が個体間で全く同じです。 これにより、「受精卵から成体になるまでの全細胞の家系図(細胞系譜)」を完全に地図化することが可能です。 - 透明な体
体が透明であるため、顕微鏡下で生きたまま細胞分裂や細胞死の過程をリアルタイムで観察できます。 - プログラム細胞死(アポトーシス)の可視化
発生過程で特定の131個の細胞が必ず死ぬことが決まっており、その死ぬ瞬間や過程を個体レベルで正確に追跡・観察できます。
哺乳類の研究者に多く用いられる理由
線虫の研究成果が哺乳類研究に応用される主な理由は、「遺伝子と分子メカニズムの高度な保存性」にあります。
- アポトーシス機構の共通性
線虫で発見された細胞死制御遺伝子(ced-3, ced-4, ced-9)は、ヒトや哺乳類の細胞死遺伝子(カスパーゼ、Apaf-1、Bcl-2ファミリー)と構造も機能も驚くほど似ています。 線虫で解明された「死のプログラム」は、そのままヒトの細胞死の理解(がんや神経変性疾患のメカニズム解明)に直結します。 - シグナル伝達経路の保存
細胞の運命決定(Ras経路、Notch経路など)に関わる基本的な分子メカニズムも、線虫と哺乳類で共通しています。 哺乳類では複雑すぎて解析が難しい現象でも、単純な線虫を使って遺伝子の機能を突き止めれば、それが哺乳類での機能解明の近道になります。
つまり、線虫は「生命の基本的な設計図(特に細胞死や発生のプログラム)を解くための、単純化された生きた縮図」として機能するため、哺乳類研究者にとっても不可欠なツールとなっています。
細胞系譜を追跡して調べる実験で、レトロウイルスはどのように用いられるか。
レトロウイルスを用いた細胞系譜追跡の原理と方法
レトロウイルス(特に複製能を欠損させた遺伝子組み換えレトロウイルス)は、特定の細胞とその子孫細胞を半永久的に標識(マーキング)し、その運命を追跡する「クローン解析(Clonal Analysis)」に用いられます。
1. 感染とゲノムへの組み込み
レトロウイルスは、分裂している細胞に感染すると、自身のRNAゲノムをDNAに逆転写し、宿主細胞の染色体DNAにランダムに組み込みます(プロウイルス化)。
この組み込みは不可逆的であり、一度組み込まれると、その細胞が分裂するたびに娘細胞へゲノムの一部として正確に受け継がれます。
2. マーカー遺伝子の発現
実験に用いるレトロウイルスベクターには、本来のウイルスの増殖に必要な遺伝子(gag, pol, env)を取り除き、代わりに目印となる「レポーター遺伝子(マーカー遺伝子)」が組み込まれています。
3. クローン(細胞集団)の追跡
- 実験手順:発生中の組織や培養細胞に、非常に薄めたウイルス液を感染させます。これにより、組織内の「ごく少数の細胞」だけにウイルスが感染する状況を作ります。
- 観察:時間が経過した後、マーカーを発現している細胞の塊(コロニー/クラスター)を観察します。
- 結論:ウイルスは分裂しても消えないため、近くに集まっている標識細胞の塊は、「最初に感染した1個の祖先細胞から生まれた子孫たち(クローン)」であると断定できます。これにより、「ある1つの細胞が将来どのような種類の細胞に分化し、どのように移動・配置されるか」という系譜を明らかにできます。
4. DNAバーコード法(さらに高度な応用)
近年では、ウイルスごとに異なる塩基配列(DNAバーコード)を組み込んで感染させることで、多数の細胞の系譜を同時に、かつ個別に識別して追跡する技術(バーコード・リニージ・トレーシング)も行われています。
出芽酵母における MCM1 タンパク質の役割は、次のうちのどれか。a. a細胞におけるa特異的遺伝子の転写b. a細胞におけるα特異的遺伝子の転写抑制c. α細胞におけるα特異的遺伝子の転写d. α細胞におけるa特異的遺伝子の転写抑制
解説
MCM1タンパク質(Mcm1)は、出芽酵母の細胞型決定に関わる重要な転写因子で、a細胞とα細胞の両方に存在し、それぞれで異なる役割を果たします。
- α細胞における役割(選択肢c, dに関連)
- α特異的遺伝子の転写活性化(正解):Mcm1は、α細胞特異的な転写因子であるα1タンパク質と複合体を形成し、α特異的遺伝子(αファクターなど)のプロモーターに結合してその転写を促進します。よってcは正しいです。
- a特異的遺伝子の転写抑制:Mcm1は、α細胞特異的な転写因子であるα2タンパク質と複合体を形成し、a特異的遺伝子のプロモーターに結合してその転写を抑制(ブロック)します。この機能は「Mcm1単独の役割」ではなく「Mcm1-α2複合体の役割」として記述されることが多いですが、Mcm1が関与していることは事実です。
- a細胞における役割(選択肢a, bに関連)
- a特異的遺伝子の転写活性化:a細胞では、Mcm1は単独でa特異的遺伝子の上流に結合し、その転写を助けます(ただし、a1タンパク質などの補助なしにデフォルトで発現するため、Mcm1の寄与は「a特異的遺伝子の転写」とも言えますが、最も特徴的で必須な役割として教科書的に強調されるのは「α細胞でのα1との協調(活性化)とα2との協調(抑制)」です)。
選択肢の検討:
- a:a細胞ではMcm1がa特異的遺伝子の発現に関与しますが、これは「a特異的転写因子(a1など)との複合体」によるものではなく、Mcm1が結合することで発現が維持されるものです。しかし、生物学の教科書(『Molecular Biology of the Cell』など)での文脈では、「Mcm1とα1が結合してα特異的遺伝子をオンにする」という機能が最も特異的かつ重要なMcm1の役割として対比的に扱われます。
- b:a細胞にはα2タンパク質が存在しないため、抑制複合体を作れず、α特異的遺伝子の抑制は起こりません(単にα1がないので発現しないだけです)。
- c:正解。Mcm1はα1タンパク質と結合して、α特異的遺伝子を強力に活性化します。
- d:Mcm1はα2タンパク質と結合してa特異的遺伝子を抑制しますが、設問が「MCM1タンパク質の(正の)役割」を問う文脈であればcが最も適切です。また、dの機能は「α2タンパク質の役割」として記述されることが多いです(Mcm1はあくまでDNA結合を助けるコファクター的扱い)。
したがって、最も直接的で適切な記述は c です。
出芽酵母において、同じ接合型の細胞どうし(aとa,またはαとα)ではなく、a細胞とα細胞が互いに接合することを保証しているのは何か。
出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)において、異性間(aとα)の接合を保証しているのは、「相補的な性フェロモン(接合因子)とその受容体の特異的な組み合わせ」です。
具体的な保証メカニズム
- フェロモンの分泌
- 受容体(レセプター)の発現
- シグナル伝達と接合反応
この「自分が出すフェロモンとは異なる、相手のフェロモンに対する受容体しか持たない」という鍵と鍵穴の関係の相互依存性により、自分と同じ型との無駄な反応を防ぎ、必ず異なる型(aとα)同士だけで接合が起こるよう厳密に制御されています。
C3H 10T1/2細胞をヌクレオチドアナログである5ーアザシチジンで処理することで、筋分化のモデルをつくることができる。5-アザシチジン処理は筋分化に関与する遺伝子の単離にどのように用いられたか。
5-アザシチジン処理は、筋分化のマスター遺伝子(司令塔)であるMyoD遺伝子の単離・発見に決定的な役割を果たしました。
遺伝子単離に用いられた具体的な方法とロジック
- 分化の誘導(表現型変換)
マウス胚由来の間葉系幹細胞株であるC3H 10T1/2細胞は、通常は線維芽細胞のような形態を維持していますが、DNA脱メチル化剤である5-アザシチジンで短時間処理すると、高頻度で筋芽細胞(筋肉になる細胞)へと運命転換(分化)します。 - マスター遺伝子の存在仮説
この高頻度な転換現象から、研究者(Davis, Weintraubら)は「ごく少数の遺伝子の発現がオンになるだけで、細胞が筋肉になる」という仮説を立てました。5-アザシチジンはDNAのメチル化(抑制の目印)を外す作用があるため、通常はメチル化されて眠っている「筋肉決定遺伝子」が脱メチル化によって目覚めたと考えられました。 - サブトラクション法(引き算)による単離
この仮説に基づき、以下の実験が行われました。- 処理した細胞(筋芽細胞になった10T1/2)からmRNAを抽出します(筋肉決定遺伝子を持っている)。
- 未処理の細胞(元の10T1/2)からmRNAを抽出します(筋肉決定遺伝子を持っていない)。
- 両者のmRNAを比較し、処理した細胞だけに発現しているmRNA(cDNA)を選び出しました(サブトラクション・ハイブリダイゼーション法)。
- MyoDの同定
選び出された特異的cDNA(MyoD1など)を元の10T1/2細胞に導入・強制発現させたところ、5-アザシチジンなしでも細胞が筋肉へと分化したため、これが求めていた「筋分化決定因子(MyoD)」であることが証明されました。
つまり、5-アザシチジンは、隠されていたマスター遺伝子を人工的に「オン」にして正解の細胞を作り出し、そこから遺伝子を釣り上げるための「引き金(トリガー)」として利用されました。
5-アザシチジンで処理したC3H 10T1/2 細胞に関する実験から、MyoD が筋分化を調節する重要な転写因子として同定された。一般的な分類では、MyoD はどのようなDNA結合タンパク質に属するか。 MyoD が(a)E2A、(b)MEF、(c)Id、のタンパク質と相互作用すると、その機能はどのような影響を受けるか。
MyoDの分類
MyoDは、bHLH型転写因子(basic helix-loop-helix transcription factor)に属します。
このタイプのタンパク質は、DNA結合を担う「塩基性領域(basic region)」と、タンパク質同士の結合(二量体形成)を担う「HLH領域」を持っています。
各タンパク質との相互作用による影響
(a) E2A(E12/E47)との相互作用:機能の活性化
- 影響:MyoDは単独ではDNAに強く結合できませんが、E2A遺伝子産物(E12またはE47)とヘテロ二量体を形成すると、筋肉特異的な遺伝子の制御領域にある「E-box配列(CANNTG)」に強力に結合できるようになり、転写を活性化します(筋分化を促進する)。
(b) MEF(MEF2: Myocyte Enhancer Factor 2)との相互作用:相乗的な活性化
- 影響:MyoD(およびE2Aとの複合体)は、別の筋肉特異的転写因子であるMEF2と物理的に相互作用し、協調して働きます。これにより、筋肉特異的遺伝子の転写効率が劇的に上昇し、筋分化プログラムを相乗的に強力に推進します。
(c) Id(Inhibitor of differentiation / DNA binding)との相互作用:機能の阻害
- 影響:Idタンパク質はHLH領域を持っていますが、DNA結合に必要な塩基性領域(Basic region)を欠いています。
- メカニズム:MyoDがE2Aと結合する代わりにIdと結合してしまうと、MyoD-Id複合体ができますが、この複合体はDNAに結合できません(Idに結合領域がないため)。
- 結果:これにより、MyoDが機能的なパートナー(E2A)と組むのが妨害され、筋肉遺伝子の転写が抑制(阻害)されます。つまり、Idは分化を止める「ネガティブ制御因子」として働きます。
哺乳類の筋分化およびショウジョウバエ(また、おそらく哺乳類)の神経分化を制御する機構には著しい類似点がある。ショウジョウバエの神経細胞分化において、MyoD、ミオゲニン、Id、およびE2Aと類似の機能をもつタンパク質は何か。このような類似性に基づいて、myoD mRNAをアフリカツメガエル胚に微量注入する実験を行ったときの発生への影響を予測せよ。
ショウジョウバエ神経分化における機能的類似タンパク質(相同因子)
MyoDらが筋分化で果たす役割(bHLH転写因子による分化決定と制御)は、ショウジョウバエの神経分化においては以下のタンパク質群が担っています。
MyoD mRNA注入実験の影響予測
予測される結果
アフリカツメガエル胚(例えば、本来筋肉にならない動物極の細胞や初期胚)にmyoD mRNAを微量注入すると、注入された領域の細胞が異所的に「筋肉細胞」へと分化すると予測されます。
理由(類似性に基づく推論)
- マスター遺伝子としての機能:ショウジョウバエのAS-C(神経決定)や哺乳類のMyoD(筋決定)は、それ一つで未分化細胞に特定の運命を強制できる「マスター制御因子」です。
- 種を超えた機能保存:哺乳類のMyoDは、カエルの胚内にあるE2A相同因子(E12/E47様タンパク質)とパートナーを組み、カエルのゲノム上の筋肉特異的遺伝子(アクチンやミオシンなど)の転写スイッチをオンにできるほど、分子メカニズムが高度に保存されています。
- 異所的発現:通常は筋肉にならない細胞でも、強力な決定因子(MyoD)が入ることで強制的に筋分化プログラムが起動します。
出芽酵母の母細胞と娘細胞がもつ、細胞分裂後における接合型変換の能力に対して、次の突然変異が与える影響を予測せよ。a. HO エンドクレアーゼの機能喪失型突然変異b.HOエンドヌクレアーゼ遺伝子を、SWI/SNF とは無関係に恒常的に発現させる機能獲得型突然変異c. SWI/SNF を Ash1タンパク質に対して非感受性にする機能獲得型突然変異
a. HOエンドヌクレアーゼの機能喪失型突然変異
- 予測される影響:母細胞も娘細胞も、どちらも接合型変換ができなくなる。
- 理由:HOエンドヌクレアーゼは、接合型遺伝子座(MAT座)のDNAを切断して組換えを開始させるための必須酵素です。これが機能しないと、スイッチングの起点となるDNA切断が起こらず、接合型変換は一切起こりません(ヘテロタリックな状態になる)。
b. HOエンドヌクレアーゼ遺伝子を、SWI/SNFとは無関係に恒常的に発現させる機能獲得型突然変異
- 予測される影響:母細胞だけでなく、通常は変換しない娘細胞までもが接合型変換を起こすようになる(さらに、細胞周期に関係なく常に切断されるため、修復が追いつかずに致死的になる可能性が高い)。
- 理由:
c. SWI/SNFをAsh1タンパク質に対して非感受性にする機能獲得型突然変異
- 予測される影響:娘細胞でも接合型変換が起こるようになる(母細胞と同様の振る舞いをする)。
- 理由:
非対称細胞分裂では、細胞骨格因子に依存して細胞内因子の非対称な分布が生まれたり、維持されたりすることがしばしばある。出芽酵母でミオシンモーターによって芽体に局在化される因子は何か。ショウジョウバエの神経芽細胞では、微小管によって頂端側に局在化される因子は何か。
出芽酵母でミオシンモーターによって芽体に局在化される因子
出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)において、ミオシンモーター(Myo4/She1)によってアクチンフィラメントに沿って芽体(娘細胞)の先端に運ばれる因子は、ASH1 mRNA です。
このmRNAが局在化し、そこで翻訳されることでAsh1タンパク質が娘細胞特異的に存在し、接合型変換を抑制します。
ショウジョウバエの神経芽細胞で微小管によって頂端側に局在化される因子
ショウジョウバエの神経芽細胞(Neuroblast)において、微小管に依存して頂端側(apical cortex)に局在化される因子は、Bazooka(Par-3)/ Par-6 / aPKC 複合体、あるいは特に Bazooka(Baz) です。
(※Inscuteableも頂端に局在しますが、これはBazookaによってリクルートされます。)
ノックアウトマウスを用いた脳の発生の研究から、アボトーシスが神経細胞で自動設定された経路(デフォルト経路)であるという見解がどのように支持されるか。
アポトーシス関連遺伝子(Caspase-3, Caspase-9, Apaf-1)ノックアウトマウスの表現型
アポトーシス(プログラム細胞死)の実行に必須の遺伝子(Caspase-3、Caspase-9、Apaf-1)を欠損させたノックアウトマウスの脳では、「死ぬはずの細胞が死なずに生き残ってしまう」ことによる劇的な過形成(Hyperplasia)や脳の肥大化が観察されます。
具体的な支持理由
これらの遺伝子は「死を実行する装置」の部品です。
- 装置がないと細胞が増えすぎる:
通常、発生中の脳では大量の神経細胞が生まれますが、その多くはアポトーシスによって間引きされ、正しい回路を作る細胞だけが生き残ります。しかし、アポトーシス実行遺伝子を壊すと、この間引きが起こらず、神経前駆細胞やニューロンが異常に蓄積し、脳組織が異常に分厚くなり、頭蓋からはみ出すほどの過形成が生じます。 - デフォルトが「死」であることの証明:
この現象は、「生存シグナル(栄養因子など)を受け取れなかった細胞は、積極的に自分を殺す(自殺する)」という仕組みが神経細胞に備わっていることを示唆しています。
もし「生きることがデフォルト」で「死ぬために特別なシグナルが必要」なら、死の装置が壊れても単に死なないだけで、通常以上の細胞が生き残る(=間引きシステムが働いていた証拠)ことの説明がつきにくくなります。
つまり、「放っておけば死ぬ(デフォルト=死)」ように設定されている細胞に対し、生存因子が「死の装置を抑制する」ことで初めて生き残ることができるというモデルが、ノックアウトマウスでの「死ねないことによる細胞過剰」という事実によって強く支持されるのです。
プログラム細胞死(アポトーシス)と細胞の壊死(ネクローシス)を区別する形態的な特徴は何か。TNF とFasリガンドが細胞表面受容体へ結合すると細胞死がひき起こされる。細胞死シグナルは細胞外でつくられるにもかかわらず、なぜこれらの分子で誘導される死がネクローシスではなく、アポトーシスであると考えられるのか。
アポトーシスとネクローシスの形態的区別
アポトーシスとネクローシスは、顕微鏡で観察した際に以下のような明確な形態の違いがあります。
| 特徴 | アポトーシス(能動的な死) | ネクローシス(受動的な壊死) |
|---|---|---|
| 細胞のサイズ | 収縮(縮小)する | 膨張し、やがて破裂する |
| 核の状態 | クロマチンが濃縮し、断片化する | 濃縮せず、溶解するかぼやける |
| 細胞膜 | 完全性を保ったまま、「水泡(bleb)」を形成し、アポトーシス小体としてちぎれる | 完全性が失われ(破れ)、中身が漏れ出す |
| 炎症反応 | 起きない(中身が漏れず、貪食細胞に静かに処理されるため) | 激しく起きる(中身が漏れて周囲を刺激するため) |
TNF/Fasリガンドによる死がアポトーシスである理由
TNFやFasリガンドは細胞外からの刺激(外因性シグナル)ですが、これらによって誘導される死がアポトーシスであると断定できる理由は、「細胞内部の特定の分子装置(カスパーゼなど)を使った、秩序だった自律的な死のプログラムが発動するから」です。
- 特異的なシグナル伝達:受容体(TNFRやFas)にリガンドが結合すると、細胞内でDISC(死誘導シグナル複合体)が形成され、カスパーゼ8などのプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が活性化されます。
- 秩序ある解体:活性化したカスパーゼは、細胞骨格やDNAを切断する酵素(CADなど)を秩序立てて活性化し、細胞を内側からきれいに解体(断片化)します。
- エネルギー依存性:このプロセスはATP(エネルギー)を使って能動的に行われる「作業」であり、ネクローシスのような単なるエネルギー枯渇による崩壊とは根本的に異なります。
つまり、きっかけは細胞外からでも、実行プロセスが「細胞自身が持っている自爆プログラム(カスパーゼカスケード)のスイッチを入れる」形であるため、これはネクローシスではなくアポトーシスに分類されます。
次の突然変異が、細胞のアポトーシスを起こす能力に与える影響を予測せよ. a:プロテインキナーゼ B (PKB)によるリン酸化を受けなくなる Bad の突然変異 b:Bcl-2の過剰発現 c:ホモ二量体を形成できなくなるBax の突然変異がん細胞の一般的な特徴のひとつにアポトーシス経路の機能喪失がある。上にあげた突然変異のうちのどれが、がん細胞に見いだされると予想されるか.
各変異の影響の予測
a. PKBによるリン酸化を受けなくなるBadの突然変異
- 影響:アポトーシスが促進される(死にやすくなる)。
- 理由:Badはアポトーシス促進タンパク質です。通常、PKBによってリン酸化されると14-3-3タンパク質と結合して細胞質に隔離され、無害化(不活性化)されます。しかし、リン酸化を受けない変異Badは常に活性化した状態でミトコンドリアに移行し、Bcl-2などの生存因子を阻害し続けるため、細胞は生存シグナルがあってもアポトーシスを起こしやすくなります。
b. Bcl-2の過剰発現
- 影響:アポトーシスが抑制される(死ににくくなる)。
- 理由:Bcl-2はアポトーシス抑制タンパク質であり、ミトコンドリア膜の透過性亢進を防ぎます。これが過剰にあると、アポトーシス促進因子(BaxやBakなど)が活性化してもすべてBcl-2によって中和されてしまい、細胞死のスイッチが入らなくなります。
c. ホモ二量体を形成できなくなるBaxの突然変異
- 影響:アポトーシスが抑制される(死ににくくなる)。
- 理由:Baxはアポトーシス促進タンパク質です。細胞死シグナルを受けるとミトコンドリア膜上で「ホモ二量体(またはオリゴマー)」を形成し、膜に穴(ポア)を開けてシトクロムcを放出させることで細胞死を引き起こします。二量体が作れないとこの穴が開かないため、アポトーシスが実行できなくなります。
がん細胞に見いだされると予想される変異
がん細胞は「死ににくい性質(アポトーシス抵抗性)」を獲得しています。したがって、上記のうちアポトーシスを抑制する効果を持つ以下の2つが予想されます。
- b. Bcl-2の過剰発現
- c. ホモ二量体を形成できなくなるBaxの突然変異
- Baxの機能喪失型変異(フレームシフト変異やミスセンス変異)は、大腸がんや胃がんなどで見つかっており、アポトーシス回避機構の一つとして知られています。
IAP(アポトーシス阻害タンパク質)は、どのようにカスパーゼと相互作用してアポトーシスを阻害するか。ミトコンドリアタンパク質は、どのようにIAPと相互作用してアポトーシスの阻害を妨げるか。
IAPによるカスパーゼの阻害機構
IAP(特にXIAP)は、カスパーゼの酵素活性を直接的に阻害するか、またはユビキチン化によって分解することでアポトーシスを止めます。
- 活性部位の物理的封鎖:XIAPは、自身の特定のドメイン(リンカー領域やBIRドメイン)を使って、活性型カスパーゼ-3やカスパーゼ-7の基質結合ポケット(活性中心)を物理的に塞ぎます。これにより、カスパーゼは標的タンパク質を切断できなくなります。
- 二量体化の阻害:XIAPのBIR3ドメインは、開始カスパーゼであるカスパーゼ-9に結合し、活性化に必要な二量体形成を妨害して不活性な単量体状態に固定します。
- ユビキチン化による分解:一部のIAP(c-IAPなど)はユビキチンリガーゼ(E3)活性を持ち、結合したカスパーゼにユビキチン鎖を付加してプロテアーゼによる分解へ誘導します。
ミトコンドリアタンパク質(Smac/DIABLO)による阻害の解除
アポトーシスシグナルが入ると、ミトコンドリアからシトクロムcと共にSmac/DIABLO(Smac)というタンパク質が細胞質へ放出されます。
- 競合阻害(おとり効果):Smacの先端にあるアミノ酸配列(IAP結合モチーフ)は、カスパーゼのIAP結合部位と非常によく似ています。SmacはIAPのBIRドメインに強力に結合し、カスパーゼを追い出して代わりに自分が結合します。
- 結果:これにより、IAPによって抑え込まれていたカスパーゼが解放(リリース)され、再び酵素活性を取り戻してアポトーシスを実行できるようになります。
つまり、Smacは「阻害剤(IAP)の阻害剤」として働くことで、アポトーシスのブレーキを外し、細胞死を促進します。
問題文引用元:東京化学同人 分子細胞生物学 第6版

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