- 分化した細胞では選択された遺伝子だけが転写される。しかし、リンパ球や赤血球を除くほとんどの体細胞には同じ核ゲノムが含まれる。これが正しい証拠を述べよ。
- アフリカツメガエルとショウジョウバエの背腹軸の決定に関与するモルフォゲンの作用を比較し、違いを述べよ。
- dorsal mRNAに特異的なプローブを用いて in situハイブリダイゼーションを行ったとき、ショウジョウバエの多核性の胚ではどこで dorsalが発現するのが観察されるか。もしDorsal タンパク質に特異的な抗体を用いて抗体染色を行ったとしたら、Dorsalタンパク質はどこに検出されるか。
- 野生型のショウジョウバエ胚と dorsal 突然変異体の胚をDNAマイクロアレイ解析すると、Dorsal タンパク質によって制御されるすべての遺伝子の情報を得られると期待される。その理由を述べよ。Dorsalによって制御される新たな遺伝子のほかに、以前から同定されていた遺伝子の変化がわかることも予想される。dorsal 変異体ではどのような遺伝子の発現が増減すると考えられるか。
- bicoid 遺伝子の3’UTRを除去すると、そのショウジョウバエ変異体はどのような表現型を示すと予想されるか。それはなぜか。
- ショウジョウバエ胚においては、5個のギャップ遺伝子群によってどのように5種類以上の細胞を決定しているのか。
- 原体節が形成される胚発生の時期はいつか。この発生現象にどのような因子が作用しているか。
- ホメオシスとは何か。花のホメオティック変異の例をあげ、その変異体の表現型と野生型の遺伝子産物がもつ正常機能を述べよ。
- Hox 遺伝子の発現は、多くの細胞世代を経過しても維持される。この過程に関する分子機構を述べよ。
- Notch シグナル伝達経路が脊椎動物の神経細胞の形成を制する上に果たす役割を示した、アフリカツメガエル胚を用いた実験を説明せよ。
- Sonic hedgehogの濃度勾配がニワトリの神経管内にさまざまな細胞種を発生させることを示す証拠は何か。
- 繊維芽細胞増殖因子 10(FGF10)が四肢の発生に関係することを示す証拠は何か
- 多指症は、指が重複することが特徴のヒト先天異常である。この異常はどのような突然変異が原因となっているか。また発生のどの段階に影響が出ているのか。
分化した細胞では選択された遺伝子だけが転写される。しかし、リンパ球や赤血球を除くほとんどの体細胞には同じ核ゲノムが含まれる。これが正しい証拠を述べよ。
分化した細胞が受精卵と同じ完全な遺伝情報(ゲノム)を保持していること(ゲノムの等価性:Genomic Equivalence)の最も強力な証拠は、「体細胞核移植(Somatic Cell Nuclear Transfer: SCNT)実験」の成功です。
具体的な証拠
- カエルの核移植実験(ガードンら)
成体カエルの分化した腸上皮細胞や皮膚細胞から核を取り出し、あらかじめ核を除去した未受精卵に移植すると、正常なオタマジャクシや成体カエルが発生しました。 - 哺乳類のクローン実験(ドリーの誕生)
分化が完全に終わったヒツジの乳腺細胞の核を未受精卵に移植した結果、遺伝的に同一なクローン個体(ドリー)が誕生しました。
結論
これらの実験結果は、分化した細胞の核が「体を作るためのすべての遺伝情報」を失わずに保持しており、環境(卵細胞質)さえ整えば、再び全能性を発揮して個体全体を作り出せることを証明しています。つまり、分化に伴う変化は「遺伝子の消失」ではなく、「遺伝子発現の可逆的な制御(オン・オフの切り替え)」によるものであることが示されました。
アフリカツメガエルとショウジョウバエの背腹軸の決定に関与するモルフォゲンの作用を比較し、違いを述べよ。
アフリカツメガエル(脊椎動物)とショウジョウバエ(無脊椎動物)は、背腹軸の決定において共通のモルフォゲンシステム(BMP/Dppとその拮抗因子)を利用していますが、その「方向性」が逆転しています。
1. 共通する分子メカニズム(相同性)
両者とも、TGF-βスーパーファミリーに属する因子(BMP/Dpp)が一方の領域から分泌され、その濃度勾配によって背腹の運命を決定します。また、このシグナルを阻害する拮抗因子(Chordin/Sog)が反対側から分泌され、シグナル分子を輸送(shuttling)して濃度勾配を急峻にする仕組みも共通しています。
| 役割 | アフリカツメガエル(脊椎動物) | ショウジョウバエ(昆虫) |
|---|---|---|
| 主モルフォゲン | BMP4 (Bone Morphogenetic Protein) | Dpp (Decapentaplegic) |
| 拮抗因子 | Chordin (Chd) | Sog (Short gastrulation) |
| シグナルの効果 | 腹側化(神経形成を抑制) | 背側化(神経形成を抑制) |
2. 決定的な違い:背腹の逆転
最も大きな違いは、「BMP/Dppシグナルが高い領域がどちらになるか」という方向性です。
- アフリカツメガエル(脊椎動物)
- BMP4は胚全体で発現しますが、背側(オーガナイザー)から分泌されるChordinによって背側での活動が阻害されます。
- 結果として、「腹側でBMP濃度が高く、背側で低い」勾配ができます。
- 神経系は、BMPシグナルが阻害された背側に形成されます(デフォルトが神経)。
- ショウジョウバエ(無脊椎動物)
- Dppは背側で発現し、腹側から分泌されるSogによって腹側での活動が阻害されます。
- 結果として、「背側でDpp濃度が高く、腹側で低い」勾配ができます。
- 神経系は、Dppシグナルが阻害された腹側に形成されます。
この現象は、進化の過程で「背腹軸の逆転(Inversion)」が起きたことを示唆しており、昆虫の腹側神経索と脊椎動物の背側神経管が、発生メカニズム上は同じ起源(BMP阻害領域)であることを意味しています。
dorsal mRNAに特異的なプローブを用いて in situハイブリダイゼーションを行ったとき、ショウジョウバエの多核性の胚ではどこで dorsalが発現するのが観察されるか。もしDorsal タンパク質に特異的な抗体を用いて抗体染色を行ったとしたら、Dorsalタンパク質はどこに検出されるか。
dorsal mRNAの発現場所(in situハイブリダイゼーション)
dorsal mRNAは、母親から卵に供給される母性効果遺伝子(maternal effect gene)の産物であるため、胚の細胞質全体に均一に分布しているのが観察されます。
背腹軸に沿った濃淡(勾配)は、mRNAのレベルでは存在しません。
Dorsalタンパク質の検出場所(抗体染色)
Dorsalタンパク質も細胞質全体に存在しますが、抗体染色を行うと、その細胞内局在(核への移行)に顕著な違いが見られます。
- 腹側(Ventral)の細胞:Dorsalタンパク質は核内に濃縮されて検出されます(Tollシグナルによる制御で核移行シグナルが露出するため)。
- 背側(Dorsal)の細胞:Dorsalタンパク質は細胞質に留まっており、核内には検出されません。
- 中間領域:腹側から背側に向かって、核内のDorsalタンパク質濃度が徐々に低くなる濃度勾配が形成されているのが観察されます。
つまり、mRNAは均一ですが、タンパク質は「腹側の核にだけ入る」という局在の変化によって、背腹軸のパターン形成(腹側化遺伝子の活性化と背側化遺伝子の抑制)を行っています。
野生型のショウジョウバエ胚と dorsal 突然変異体の胚をDNAマイクロアレイ解析すると、Dorsal タンパク質によって制御されるすべての遺伝子の情報を得られると期待される。その理由を述べよ。Dorsalによって制御される新たな遺伝子のほかに、以前から同定されていた遺伝子の変化がわかることも予想される。dorsal 変異体ではどのような遺伝子の発現が増減すると考えられるか。
1. Dorsalによって制御されるすべての遺伝子情報が得られる理由
マイクロアレイ解析は、数千から数万の遺伝子(全ゲノムレベル)のmRNA発現量を一度に網羅的に測定できる手法です。
野生型とdorsal機能喪失変異体のmRNAを比較することで、Dorsalタンパク質が存在する場合としない場合で発現量が有意に変化する遺伝子群をすべて抽出できます。Dorsalは最上位のマスター転写因子であり、直接的または間接的に制御される下流遺伝子の発現は、Dorsalの有無によって劇的に変わるため、その差異を網羅的に検出することで制御ネットワークの全容(ターゲット遺伝子のリスト)を得ることができます。
2. dorsal変異体で予想される遺伝子発現の増減
Dorsalタンパク質は、「腹側で遺伝子を活性化」し、同時に「背側で遺伝子を抑制」する二面性を持っています。したがって、Dorsalが失われると以下の変化が起きます。
(a) 発現が「減少」する遺伝子(腹側化遺伝子)
Dorsalによって活性化されるはずの遺伝子は、Dorsalがないため転写されなくなり、発現量が激減します。
(b) 発現が「増加」する遺伝子(背側化遺伝子)
Dorsalによって抑制されるはずの遺伝子は、抑制が外れる(脱抑制される)ため、本来発現しない腹側領域まで広がって胚全体で発現するようになり、総発現量が増加します。
- 具体例:decapentaplegic (dpp)、zerknüllt (zen)、tolloidなど。
- 結果:これらは背側の表皮などを運命づける遺伝子であるため、胚全体が背側化(dorsalized)した表現型になります。
bicoid 遺伝子の3’UTRを除去すると、そのショウジョウバエ変異体はどのような表現型を示すと予想されるか。それはなぜか。
予想される表現型
その変異体は、頭部と胸部(前方構造)を欠失し、胚全体が尾部のような構造になるか、または極めて異常な発生を示して致死になると予想されます。
(具体的には、野生型bicoid遺伝子を持たない母親から産まれた胚と同じ「bicoid欠損表現型」になります。)
理由
bicoid遺伝子の3’UTRには、mRNAを卵の前端(anterior pole)に局在化させるための必須のシグナル配列(局在化シグナル)が含まれているからです。
- 正常な場合:
母親のナース細胞で作られたbicoid mRNAは、微小管とモータータンパク質によって卵母細胞へ輸送され、3’UTRにあるシグナル配列(特にステムループ構造)を介して、卵の前端にしっかりと繋ぎ止められます。
受精後、この前端に局在したmRNAからBicoidタンパク質が翻訳され、そこから拡散することで「前から後ろへ(前端で濃度が高く、後端で低い)」というタンパク質の濃度勾配が形成されます。この勾配が「ここは頭、ここは胸」という位置情報を細胞に与えます。 - 3’UTRがない場合:
局在化シグナルがないため、bicoid mRNAは前端に留まることができず、胚全体に均一に拡散してしまいます(あるいは分解されやすくなる)。
結果として、Bicoidタンパク質の濃度勾配が形成されず(全体に薄く広がるか、機能する濃度に達しない)、頭部や胸部を作るために必要な遺伝子(hunchbackなど)を正しい場所で活性化できなくなります。そのため、前方の構造が形成されず、欠失してしまいます。
ショウジョウバエ胚においては、5個のギャップ遺伝子群によってどのように5種類以上の細胞を決定しているのか。
ショウジョウバエ胚において、数少ないギャップ遺伝子(hunchback, krüppel, knirps, giant, taillessなど)がそれ以上の種類の細胞運命(位置情報)を決定できるのは、主に以下の2つのメカニズムによるものです。
1. 濃度の組み合わせ(Combinatorial Code)による決定
各ギャップ遺伝子は、胚の前後軸に沿って単なるON/OFFではなく、重複したブロードな濃度勾配を持って発現しています。
細胞(核)は、単一の遺伝子だけでなく、その場所における複数のギャップタンパク質の濃度の組み合わせ(比率)を読み取ります。
例えば、「Hunchbackが高濃度でKrüppelが中濃度」の場所と、「Hunchbackが低濃度でKrüppelが高濃度」の場所では、たとえ同じ2つの遺伝子が存在していても、下流のペアルール遺伝子(eveなど)に対する制御効果(活性化・抑制のバランス)が異なり、異なる運命が決定されます。
2. 相互抑制による境界形成(Cross-inhibition)
ギャップ遺伝子同士は互いに発現を抑制し合っています(例:HunchbackとKnirps、KrüppelとGiantは互いに抑制関係)。
この相互抑制により、ぼんやりとした濃度勾配の中に鋭い境界線が生まれます。この「境界」自体も位置情報として機能し、細胞は「遺伝子Aの発現領域」と「遺伝子Bの発現領域」だけでなく、「AとBの境界付近」という特定の狭い領域を区別して認識できるようになります。
これらの仕組みにより、わずか数個の入力(ギャップ遺伝子)から、より精細で多様な出力(7つの縞模様を作るペアルール遺伝子の発現パターンなど)を生み出すことが可能になっています。
原体節が形成される胚発生の時期はいつか。この発生現象にどのような因子が作用しているか。
原体節形成(体節形成)の時期
原体節(somite)の形成は、原腸形成(gastrulation)の途中から終了後、神経管形成(neurulation)と並行して起こる「体節形成期(somitogenesis)」に見られます。
作用している主な因子とメカニズム
原体節の周期的な形成は、「分節時計(Segmentation Clock)」と呼ばれる遺伝子発現の振動と、後方から前方へ移動する「決定波(Wavefront)」の組み合わせ(Clock and Wavefrontモデル)によって制御されています。
- 分節時計(振動因子)
- 決定波(位置情報の勾配)
つまり、Notchシグナルによる「時間」の制御と、FGF/Wnt/RAによる「場所」の制御が組み合わさることで、正確な位置とタイミングで原体節が形成されます。
ホメオシスとは何か。花のホメオティック変異の例をあげ、その変異体の表現型と野生型の遺伝子産物がもつ正常機能を述べよ。
ホメオシスとは
ホメオシス(Homeosis)とは、遺伝子の突然変異などによって、多細胞生物のある器官が本来の場所とは異なる場所に形成される現象(ある体節の器官が、別の体節の相同器官に置き換わる現象)を指します。
例えば、昆虫の触角が生えるべき場所に脚が生えたり、植物の雄しべができる場所に花弁ができたりする現象がこれにあたります。
花のホメオティック変異の例:agamous (ag) 変異体
シロイヌナズナなどの被子植物で有名なホメオシス変異に、Cクラス遺伝子であるagamous (ag) の機能喪失変異体があります。
1. 変異体の表現型
- 雄しべができるはずの第3領域(内側から2番目の輪)が、「花弁」に変化します。
- 心皮(雌しべ)ができるはずの第4領域(中心の輪)が、新たな「花」(がく片・花弁・花弁…の繰り返し)に変化し、いつまでも花の中に花を作り続けます(八重咲きのような状態)。
- 結果として、生殖器官(雄しべ・雌しべ)が完全に失われます。
2. 野生型遺伝子産物(AGタンパク質)の正常機能
野生型のAGタンパク質は、転写因子として以下の2つの重要な機能を持ちます。
- 器官の運命決定(Identity):
- 第3領域でBクラス遺伝子(AP3/PI)と共に働き、「雄しべ」を形成させます。
- 第4領域で単独で働き、「心皮(雌しべ)」を形成させます。
- 花分裂組織の有限性の決定(Determinacy):
- 中心部での細胞分裂を停止させ、花の形成を終了させる役割を持ちます(これにより、花の成長が止まり、種子形成へ移行します)。
- また、Aクラス遺伝子(AP1/AP2)の発現を中心部で抑制し、Aクラス遺伝子が中心部まで広がらないように境界を維持しています(CクラスとAクラスは互いに拮抗関係にあるため)。
Hox 遺伝子の発現は、多くの細胞世代を経過しても維持される。この過程に関する分子機構を述べよ。
Hox遺伝子の発現パターンが初期発生で確立された後、細胞分裂を経ても長期的に維持される(細胞記憶される)分子機構は、クロマチン構造を制御する2つの対抗するタンパク質群、「ポリコーム群(Polycomb group: PcG)」と「トリソラックス群(Trithorax group: TrxG)」によって担われています。
1. 発現の「抑制」の維持:ポリコーム群(PcG)
- 役割:Hox遺伝子が発現していない(OFF)細胞において、その不活性状態を維持します。
- 機構:
2. 発現の「活性化」の維持:トリソラックス群(TrxG)
- 役割:Hox遺伝子が発現している(ON)細胞において、その活性状態を維持します。
- 機構:
結論
この2つのグループが、細胞ごとに「Hox遺伝子のスイッチがONかOFFか」という履歴をヒストン修飾として書き込み(エピジェネティックな記憶)、それをDNA複製時に娘細胞へ正確に継承することで、発生運命が安定して維持されます。
Notch シグナル伝達経路が脊椎動物の神経細胞の形成を制する上に果たす役割を示した、アフリカツメガエル胚を用いた実験を説明せよ。
アフリカツメガエル胚を用いた実験:側方抑制による神経形成の制限
アフリカツメガエルの初期発生において、Notchシグナルが「神経になろうとする細胞」の数を制限し、適切なパターン(まばらな配置)を作ることを示した古典的な実験は、主にリガンド(Delta)や受容体(Notch)の機能を操作するものです。
1. 実験内容(機能獲得と機能喪失)
研究者(Chitnisら)は、アフリカツメガエルの胚(神経板期)を用いて以下の実験を行いました。
- 過剰発現実験(Notchシグナルの強制活性化):
活性型Notch(細胞内ドメイン:NICD)のmRNAを片側の割球に微量注入し、Notchシグナルを強制的にオンにしました。 - 機能阻害実験(Notchシグナルの遮断):
優性不能型Delta(細胞外ドメインのみでシグナルを伝えない変異体)などを注入し、Notchシグナルが入らないようにしました。
2. 結果
- Notchシグナルを活性化させた側:
一次神経細胞(Primary Neurons)の形成が劇的に抑制(消失)され、未分化な前駆細胞のまま留まりました。 - Notchシグナルを阻害した側:
神経板の広い領域で、過剰な数の細胞が一斉に神経細胞へと分化し、「神経の過形成(Neurogenic phenotype)」が観察されました。本来なら表皮や支持細胞になるはずの細胞まで神経になってしまったためです。
3. 結論:側方抑制(Lateral Inhibition)モデル
この実験から以下のメカニズムが証明されました。
- 神経になることを決めた細胞は、隣接する細胞に対してDeltaリガンドを提示し、隣接細胞のNotch受容体を刺激します。
- Notchシグナルを受け取った隣接細胞では、神経分化因子(Neurogeninなど)の発現が抑制され、神経になることが阻止されます(側方抑制)。
- 結果として、集団の中で「勝った(Deltaを強く出した)」少数の細胞だけが神経になり、周囲は神経にならずに済むという、美しい「まばらな配置パターン」が形成されます。
つまり、Notchシグナルは「隣の細胞が神経になるのを防ぐ(自分は神経にならないようにする)」ブレーキの役割を果たしており、これがないと全員が神経になってしまうことが示されました。
Sonic hedgehogの濃度勾配がニワトリの神経管内にさまざまな細胞種を発生させることを示す証拠は何か。
Sonic hedgehog(Shh)の濃度勾配が神経管の背腹軸パターン形成を制御することを示す決定的証拠は、脊索やShhタンパク質を含浸したビーズを神経管の側方・背側へ異所的に移植した実験です。この移植により、新たなShh発生源からの距離(濃度勾配)に応じて、底板・運動ニューロンなどの細胞種が正常な配列順で誘導されました。
移植実験の詳細と結果
正常発生のパターン(基準)
実験操作(1990年代、Jessellら)
ニワトリ胚(HHステージ12-18)で、神経管の側面・背側に:
- Shh産生組織(脊索片)
- Shh蛋白質ビーズ(Agarose beadにShh吸収)
観察結果
この「距離依存的パターン再現」が、Shh濃度勾配説の直接証拠です。
濃度閾値モデルと分子基盤
Shh濃度が連続的勾配であるのに対し、細胞種境界は鋭い。これはクラスI/II転写因子の相互抑制による:
| Shh濃度 | クラスII遺伝子(活性化) | クラスI遺伝子(抑制) | 結果細胞種 |
|---|---|---|---|
| 高(>800nM) | Nkx2.2, Nkx6.1 | Pax6, Irx3抑制 | 底板 |
| 中高(200-800nM) | Olig2, Nkx6.1 | Pax6抑制 | 運動ニューロン |
| 中(50-200nM) | Nkx6.1 | Irx3抑制 | V3介在ニューロン |
| 低(<50nM) | – | Pax6, Dbx2活性 | 背側ニューロン |
相互抑制(例:Nkx2.2がPax6転写阻害)により、閾値を超えると双安定状態で境界固定。
対照実験と特異性確認
これらにより、Shh濃度勾配が必要・十分条件を満たすことが確認されました。
繊維芽細胞増殖因子 10(FGF10)が四肢の発生に関係することを示す証拠は何か
FGF10が四肢発生に必須であることを示す決定的証拠は、FGF10ノックアウトマウスでの完全四肢欠損とニワトリ胚側板へのFGF10ビーズ移植による異所的四肢誘導の2つの実験結果です。これらはFGF10が四肢形成の開始因子として必要かつ十分であることを証明しています。
FGF10ノックアウトマウス:必要性の証明
実験結果
Sekineら(1999)がFGF10遺伝子を標的破壊したマウスを作製したところ、前肢・後肢ともに完全に欠損(limb agenesis)しました。
意義
FGF10欠損で四肢発生の初期プログラムが完全に停止するため、FGF10がlimb initiation(四肢芽開始)の必須因子であることが確定。Tbx5/4などの上流因子は正常に発現するが、FGF10不在で下流(肢芽増殖)が途絶えます。
FGF10ビーズ移植実験:十分性の証明
実験結果
Ohuchiら(1997)は、FGF10蛋白質を含浸したAgaroseビーズをニワトリ胚の側板間葉(flank mesoderm、本来四肢非発生領域)に移植。
意義
非四肢領域の細胞がFGF10単独で四肢形成プログラムを起動するため、FGF10は四肢決定の十分条件を満たします。
FGF10-FGF8フィードバックループのメカニズム
メカニズム詳細:
FGF10が外胚葉をAER化(FGF8誘導)→FGF8が間葉増殖維持(FGF10再活性化)というポジティブフィードバックが四肢伸長を駆動。ノックアウトでループ開始不能、移植でループ人工起動が可能。
証拠の統合的意義
これによりFGF10は四肢発生のイニシエーターとして位置づけられ、上皮-間葉相互作用の起点因子であることが確立されました。
多指症は、指が重複することが特徴のヒト先天異常である。この異常はどのような突然変異が原因となっているか。また発生のどの段階に影響が出ているのか。
多指症の主な原因は、Sonic hedgehog(SHH)遺伝子の遠隔エンハンサー領域であるZRS(ZPA Regulatory Sequence)内の点突然変異です。この変異により、SHHの発現位置やタイミングが乱れ、四肢芽の前後軸パターン形成段階(指の位置と本数を決める中期)で影響が出ます。
ZRSエンハンサーの点突然変異が引き起こすメカニズム
ZRSはSHH遺伝子本体から約1Mb離れた位置にあり、四肢芽の後側(小指側、ZPA領域)でのSHH特異的発現を制御するcis調節要素です。
正常では:
- ZRSがZPA限定でSHHを活性化
- SHHの後方から前方への濃度勾配が、親指(指1)から小指(指5)までの前後軸をパターン化
点突然変異(例:c.389A>Tなど)が起きると:
- ZRSの転写因子結合親和性が変化
- 前側(親指側)で異所的・過剰にSHHが発現、または後側での発現持続時間が延長
- 結果、ZPA様領域が重複・拡大し、指領域が追加指定される(preaxial polydactyly)
影響が出る発生段階:四肢芽前後軸パターン形成
四肢発生のタイムライン:
- 初期(limb field specification):肢芽位置決定(Tbx4/5など)
- 中期(proximo-distal/AP patterning):AER形成(FGF8)、ZPA形成(SHH)、前後軸決定
- 後期(digit formation):軟骨原基分化
ZRS変異の影響は2の中期で顕著:
証拠となる実験・症例
このように、ZRS変異はSHHの空間的・時間的制御を崩し、四肢前後軸決定の精密なプログラムを狂わせます。

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