- ほとんどの真核細胞には3種類の細胞骨格フィラメント系が存在する。組成、機能,および構造の面からそれらを比較せよ
- アクチンフィラメントは明確な方向性をもっている。方向性とはどのようなことか。サブユニットレベルでは方向性はどのように生じるか。フィラメントの方向性はどのようにして検出されるか
- 細胞内では、アクチンフィラメントは束や網目を形成する。細胞はこれらの構造をどのように形成するのか。アクチンフィラメントが束をつくるかあるいは網目をつくるかは何が決定するのか。
- 細胞内でのアクチンの重合についてわかっていることの多くはin vitroで精製アクチンを用いた実験によっている。in vitroでアクチン重合を研究するのにどんな方法が使われているか。それぞれの技術を説明せよ。
- 細胞内のアクチンの主要型はATP-GアクチンとADP-Fアクチンである。ヌクレオチド状態の変換はどのようにアクチンの重合と脱重合に共役しているか。突然変異でアクチンのATP結合が阻害されたら、アクチンフィラメントの重合/脱重合はどのようになるか。突然変異でアクチンのATP の加水分解が阻害されたら、どのようなことが起こるか。
- 這っている細胞の先行端でアクチンフィラメントはトレッドミリングを行っていると考えられている。トレッドミリングとは何か。この重合の性質は何によって起こされるのか。
- 精製されたアクチンはin vitro で可逆的に重合できるが、細胞内では種々のアクチン結合タンパク質がアクチンの重合を調節している。次のそれぞれに対する機能阻止抗体を独立に細胞に微量注入したとき、細胞のアクチン細胞骨格に及ぼす影響を予想せよ。プロフィリン、チモシンβ4、CapZ、およびArp2/3複合体。
- ミオシンには少なくとも20の異なったクラスがある。すべてのクラスが共通してもっている性質は何か。何によって違いが出るのか。
- アクチンフィラメントに沿ったミオシンの歩行能力は適切な装置をつけた顕微鏡を使うと計測できる。そのような計測はどう行われるかを述べよ.ATPはなぜ必要なのか。このような方法はどのようにしてミオシン運動の方向性の決定やミオシンによって生じる力の測定に利用されるか。
- 収縮束は非筋細胞にも存在するが,その構造は筋細胞のサルコメアほど整然としていない。非筋細胞の収縮束の目的は何か。
- ミオシンはどのようにして ATP加水分解によって放出されたエネルギーを機械的仕事に変換するのか。
- ミオシンIIのデューティー比は10%でステップサイズは5~15mmである。それに対して、ミオシンVはもっと高いデューティー比(約70%)をもち、アクチンフィラメント上を36mmのステップで動く。ミオシンIIとミオシンVのどのような違いがこうした運動性の違いをもたらすのだろうか。ミオシンIIとミオシンVの構造の違いや運動性の違いは細胞内での機能の違いとどのように対応しているか。
- 骨格筋と平滑筋の収縮はともに細胞内のCa²⁺濃度上昇によってひき起こされる。それぞれのタイプの筋肉がCa²⁺濃度上昇を収縮に変換するしくみを比較せよ。
- いくつかのタイプの細胞はアクチン細胞骨格の駆動力を利用して移動する。その移動に利用されるのはどのようなアクチンフィラメントの集合体か。
- 細胞は特定の方向に動くために、細胞外のシグナルを利用してどの部分を前、どの部分を後とするかを決める。移動する細胞が運動の方向を決定する際に使うシグナル伝達経路に、どのようにGタンパク質が関与しているかについて述べよ。
- 細胞の移動は戦車の動きのようである。先行端でアクチンフィラメントが急激に集合して東や網目となり、それが細胞膜を押し出し、細胞は前へ進む、後方では細胞接着が壊され最後尾が前へと引っ張られる。この細胞を動かす牽引力は何によってもたらされているのか。細胞体の移動はどのように行われるのか。細胞が前進するとき、細胞の接着はどのようにして切り離されていくのか。
ほとんどの真核細胞には3種類の細胞骨格フィラメント系が存在する。組成、機能,および構造の面からそれらを比較せよ
細胞骨格3系統の全体像
真核細胞の細胞骨格は
- アクチンフィラメント(マイクロフィラメント)
- 微小管(マイクロチューブ)
- 中間径フィラメント
の3種類からなり、それぞれが異なるタンパク質組成・直径・配置と機能を持ちながら、細胞の形・運動・内部構造を支えています。
組成の違い
- アクチンフィラメント
- 微小管
- 中間径フィラメント
構造・サイズの違い
- アクチンフィラメント
- 微小管
- 中間径フィラメント
機能の違い
- アクチンフィラメントの主な機能
- 微小管の主な機能
- 中間径フィラメントの主な機能
比較まとめ(表)
| 項目 | アクチンフィラメント | 微小管 | 中間径フィラメント |
|---|---|---|---|
| 主成分 | アクチン | α/βチューブリン二量体 | ケラチン、ビメンチン、ラミンなど多様 |
| 直径 | 約6〜7 nm | 約23〜25 nm | 約8〜10 nm |
| 構造 | 2本鎖らせん状の極性フィラメント | 中空チューブ状・極性あり | 極性のないロープ状ケーブル |
| 主な機能 | 細胞運動、筋収縮、形の微調整 | 輸送レール、紡錘体、繊毛 | 構造補強、機械的強度、核・オルガネラ固定 |
このように、3種類の細胞骨格フィラメントは「組成」「構造」「機能」のいずれも異なり、互いに補完し合うことで、真核細胞の形・強度・ダイナミックな運動性を実現しています。
アクチンフィラメントは明確な方向性をもっている。方向性とはどのようなことか。サブユニットレベルでは方向性はどのように生じるか。フィラメントの方向性はどのようにして検出されるか
1. 「方向性」とは何か
アクチンフィラメントには「+端(barbed end)」と「-端(pointed end)」という異なる性質をもつ両端があり、一方向に“向き”をもった構造になっている。
このため、アクチンの重合・脱重合やミオシンなどモータータンパク質の移動方向が、常に一定の「端→端」の向きで進むという意味で、フィラメントに方向性(極性)があると言う。
2. サブユニットレベルでの方向性の起源
アクチン1分子(Gアクチン)は非対称な形(上下左右が区別できる“向き”のある形)をしており、この単量体が「同じ向きに揃って」数珠つなぎに重合してFアクチンをつくる。
すべてのサブユニットが同じ向きで並ぶため、フィラメント全体として一方の端が「頭側(barbed/+端)」、もう一方が「尖った側(pointed/-端)」となり、構造的にも反応速度的にも違う端が生じる。
3. フィラメント方向性の検出法
- ミオシンS1断片による「矢じり構造」の観察
アクチンにミオシンの頭部断片(S1)を結合させて電子顕微鏡で観察すると、フィラメントに沿って“矢じり(やじり)”のような模様が並んで見える。
矢じりの尖っている側が「-端(pointed end)」、反対側が「+端(barbed end)」であり、この向きからフィラメントの方向性を判定できる。 - 重合速度・臨界濃度の違いを利用する方法
生化学的には、+端の方がアクチン単量体の重合が速く、臨界濃度も低いことが知られており、この差(+端優先で伸びる)からも端の向きを識別できる。
このように、アクチンフィラメントの方向性は「非対称なサブユニットが同じ向きに並ぶこと」で生じ、その向きはミオシンS1の矢じり構造や端ごとの重合特性の違いで検出される。
細胞内では、アクチンフィラメントは束や網目を形成する。細胞はこれらの構造をどのように形成するのか。アクチンフィラメントが束をつくるかあるいは網目をつくるかは何が決定するのか。
1. 細胞はどうやって束・網目をつくるか
細胞は、多数の「アクチン結合タンパク質(ABP)」を使って、アクチンフィラメント同士を“橋渡し(クロスリンク)”することで、高次構造(束や網目)を組み立てている。
代表的な束形成タンパク質(フィンブリン、ファシン、α‐アクチニン)や、網目形成タンパク質(フィラミン、スペクトリンなど)が、二つ以上のアクチンフィラメントに同時に結合して、配向・間隔・角度を制御することで、フィロポディアのような細長い束や、ラメリポディア・細胞皮質のような網目状ネットワークができあがる。
2. 束になるか網目になるかを決める要因
アクチンが「束」になるか「網目」になるかは、主に次の要因で決まる。
- クロスリンカータンパク質の種類と形状
- クロスリンカーの濃度・比率・配置
- アクチンの重合条件・フィラメント長・力学状態
まとめると、細胞は多様なアクチン結合タンパク質を組み合わせ、その種類・濃度・空間配置とアクチン重合条件を調節することで、「束」か「網目」かといったアクチン構造の違いを決めている。
細胞内でのアクチンの重合についてわかっていることの多くはin vitroで精製アクチンを用いた実験によっている。in vitroでアクチン重合を研究するのにどんな方法が使われているか。それぞれの技術を説明せよ。
1. 蛍光スペクトル法(Pyrene-actin蛍光法)
G-アクチン(単量体)にピレンという蛍光色素を結合させた「ピレン-アクチン」を用いる。
G-アクチン状態では蛍光が弱いが、F-アクチン(重合体)になると蛍光強度が劇的に増強する。
時間経過とともに蛍光強度をリアルタイムで測定することで、重合速度、臨界濃度(重合が始まる濃度)、+端・-端の重合速度差などを定量的に解析できる。最も標準的で感度の高い方法。
2. 高速遠心分離法(超遠心法)
重合させたアクチン溶液を高速遠心(100,000g以上)で遠心し、沈殿物(F-アクチン)と上清(G-アクチン)を分離してタンパク質量を測定。
沈殿率から重合度を計算し、臨界濃度や平衡定数を求める。
古典的だが、大量のサンプルを扱え、正確な質量測定が可能。
3. 粘度測定法(粘度計)
アクチン溶液の粘度を回転粘度計などで測定。
G-アクチンでは溶液がサラサラだが、重合してF-アクチンになると長く絡み合うため粘度が急上昇する。
重合の進行を間接的にモニターし、フィラメント長の変化も推定可能。簡便で安価。
4. 電子顕微鏡観察法
重合させたアクチンをグリッドに吸着させて電子染色し、TEM(透過型電子顕微鏡)で直接観察。
フィラメントの長さ分布、極性(ミオシンS1矢じり装飾で+・-端識別)、束・網目構造の形態を可視化。
構造解析に最適だが、固定・染色が必要でダイナミクス観察には不向き。
5. 全内部反射蛍光顕微鏡(TIRF)法
ガラス表面に固定したアクチン核形成点から、蛍光標識アクチンで重合をリアルタイム観察。
単一フィラメントレベルで重合・伸長・短縮を追跡し、端ごとの速度、核形成頻度、分岐などを解析。
現代の最先端手法で、空間分解能が高い。
6. その他の補助的手法
- 光散乱法:フィラメント長の増加で散乱光が増す。非侵襲的でリアルタイム可能。
- G-アクチン結合タンパク質(DNase I, Thymosin)による競合測定:G-アクチン量を間接測定。
これらの手法を組み合わせて用いることで、アクチン重合の速度論、調節因子の影響、動的平衡などが詳細に解明されてきた。
細胞内のアクチンの主要型はATP-GアクチンとADP-Fアクチンである。ヌクレオチド状態の変換はどのようにアクチンの重合と脱重合に共役しているか。突然変異でアクチンのATP結合が阻害されたら、アクチンフィラメントの重合/脱重合はどのようになるか。突然変異でアクチンのATP の加水分解が阻害されたら、どのようなことが起こるか。
1. ヌクレオチド状態の変換と重合・脱重合の共役
アクチンは常にATPまたはADPを結合しており、その状態が重合ダイナミクスを駆動する(ATPaseサイクル)。
- 重合時:細胞質のG-アクチン(単量体)は主にATP結合型(ATP-G-アクチン)。この高い親和性で+端に結合し、F-アクチン(フィラメント)へ組み込まれる。
- 加水分解:フィラメント組み込み直後にATPがADP+Piへ加水分解(フィラメント内のアクチン自身のATPase活性)。Pi放出でADP-F-アクチンになる。
- 脱重合時:主に-端からADP-F-アクチン(親和性低い)が解離し、ADP-G-アクチンになるが、ADP結合型ヌクレオチド交換因子(プロフィリンなど)により速やかにATP-G-アクチンへ再充電され、次の重合サイクルへ。
この「ATP重合 → 加水分解 → ADP脱重合 → ATP再結合」のサイクルが、トレッドミル運動(+端伸長・-端短縮)を生み、フィラメントの動的回転(treadmilling)を可能にする。
2. ATP結合阻害突然変異の場合
ATPが結合できないアクチン(ヌクレオチドフリーまたはADP固定)は、G-アクチンとして不安定になり、重合能が著しく低下する。
- 重合:ほとんど起こらず、フィラメント形成が極端に抑制される(臨界濃度急上昇)。
- 脱重合:既存フィラメントも急速に解体(ヌクレオチドなしアクチンは不安定)。
結果:細胞内アクチンネットワーク崩壊、細胞運動・分裂異常。
3. ATP加水分解阻害突然変異の場合
ATP結合は可能だが加水分解できない(ATP固定型アクチン)。
- 重合:+端で通常通りATP-アクチン重合が進む。
- 加水分解なし:フィラメント全体がATP-F-アクチンで安定(Pi放出なしで高親和性維持)。
- 脱重合:-端からの脱重合が極めて遅く(臨界濃度低下)、フィラメントが長く安定化し、過剰伸長・硬直化。
結果:動的回転停止、アクチン流動性低下、細胞運動鈍化や異常構造蓄積(例:フィロポディア過剰形成)。
まとめ表
このATP/ADPサイクルこそが、アクチンの高速ダイナミクス(重合速度10倍以上)の原動力であり、細胞運動・形態変化の基盤となっている。
這っている細胞の先行端でアクチンフィラメントはトレッドミリングを行っていると考えられている。トレッドミリングとは何か。この重合の性質は何によって起こされるのか。
トレッドミリングとは何か
トレッドミリングとは、アクチンフィラメントが**長さを保ったまま「+端(barbed end)で伸長し、同時に-端(pointed end)で短縮する」**ことで、フィラメント全体が一方向に「移動するように見える」動的平衡状態のこと。
先行端(ラメリポディア先端など)では、このトレッドミリングが細胞の推進力を生み、細胞を前進させる原動力となっている。
イメージ:ベルトコンベアのように、+端で新しいアクチンが追加され、-端から古いアクチンが剥がれ落ち、フィラメントが「流れる」。
この性質を生むメカニズム(何によって起こされるか)
トレッドミリングは、アクチンの両端で重合・脱重合速度が異なる極性とATP加水分解サイクルによって駆動される。
1. 両端の速度差(極性)
定常状態(G-アクチン濃度一定)では、+端の伸長量=-端の短縮量となり、長さ一定で「回転」する。
2. ATP加水分解サイクルの役割
細胞質:ATP-G-アクチン(高濃度・重合親和性高い)
↓ +端で重合
F-アクチン内部:ATP → ADP+Pi(加水分解) → ADP-F-アクチン(不安定化)
↓ -端で脱重合
細胞質:ADP-G-アクチン → プロフィリン等でATP再結合 → 次のサイクル
- ATP加水分解で-端が「脱重合しやすくなり」、+端が「重合しやすくなる」偏りを生む。
- これにより、in vitroでさえトレッドミリングが観察され、細胞内ではArp2/3複合体やプロフィリン、Cofilinなどがこのサイクルを加速・局在化させる。
先行端での実例:魚角質細胞のラメリポディアでは、電子顕微鏡でこのトレッドミリングが直接確認され、細胞運動の基盤となっている。
このメカニズムにより、細胞はアクチンを「使い捨て」せず、効率的にリサイクルしながら推進力を生み出している。
精製されたアクチンはin vitro で可逆的に重合できるが、細胞内では種々のアクチン結合タンパク質がアクチンの重合を調節している。次のそれぞれに対する機能阻止抗体を独立に細胞に微量注入したとき、細胞のアクチン細胞骨格に及ぼす影響を予想せよ。プロフィリン、チモシンβ4、CapZ、およびArp2/3複合体。
各タンパク質の機能阻止抗体注入時の影響予想
機能阻止抗体注入により、各タンパク質のアクチン結合・活性化が特異的に阻害される。各タンパク質の役割から、アクチン細胞骨格(フィラメント、束、網目、ラメリポディアなど)への影響を以下に示す。
プロフィリン阻害の場合
- 役割:ADP-G-アクチンと高速結合しATP交換を促進、+端重合促進因子としてG→Fプールを供給。
- 影響:ATP-G-アクチン供給低下→全般的な重合速度低下。ラメリポディア伸展鈍化、ストレスファイバー減少、細胞運動停止。既存フィラメントは維持されるが、新規形成・回転が抑制。
チモシンβ4阻害の場合
- 役割:G-アクチン高親和性プール形成(重合抑制)、プロフィリンと競合しG-アクチン貯蔵庫。
- 影響:G-アクチン貯蔵プール放出→過剰重合促進。フィラメント過剰形成、異常なアクチン凝集体蓄積、細胞形崩壊。ラメリポディア拡大・不安定化、細胞接着異常。
CapZ阻害の場合
- 役割:+端キャッピング(重合・分岐抑制)、フィラメント長制御、束形成補助。
- 影響:+端キャッピング解除→過剰伸長・分岐。異常長フィラメント形成、フィロポディア・ラメリポディア異常伸長、細胞伸展過剰・不安定。応力耐性低下。
Arp2/3複合体阻害の場合
- 役割:分岐型核形成(Y分岐網目形成)、ラメリポディア・細胞皮質網目構築。
- 影響:分岐核形成停止→網目構造崩壊。ラメリポディア消失、フィロポディア・ストレスファイバー偏重、細胞運動停止・丸型化。先行端推進力喪失。
影響まとめ表
| タンパク質 | 主な役割 | 抗体注入時のアクチン骨格変化 | 細胞表現型変化 |
|---|---|---|---|
| プロフィリン | ATP交換・+端重合促進 | 重合速度↓、新規形成↓ | 運動停止、ファイバー減少 |
| チモシンβ4 | G-アクチン貯蔵 | 過剰重合、凝集体↑ | 形崩壊、不安定伸展 |
| CapZ | +端キャッピング | 過剰伸長・分岐↑ | 異常伸長、不安定 |
| Arp2/3 | 分岐核形成 | 網目崩壊、ラメラ消失 | 丸型化、運動停止 |
これらの影響は、微量注入でも顕著で、実際の実験(マイクロインジェクション)で確認されている。アクチン調節因子の特異性が、細胞骨格の精密制御を示す好例である。
ミオシンには少なくとも20の異なったクラスがある。すべてのクラスが共通してもっている性質は何か。何によって違いが出るのか。
1. すべてのミオシンクラスが共通にもつ性質
すべてのミオシン(少なくとも20クラス以上、最新では35〜79クラス)は、アクチンフィラメントに結合し、ATPを加水分解して機械的力を発生させるモーター活性を持つ。
具体的には:
- モータードメイン(頭部):アクチン結合部位とATP結合・加水分解部位を持ち、ATP水解エネルギーでコンフォメーション変化を起こし、アクチン上を移動。
- 基本サイクル:ATP結合→アクチン解離→ATP加水分解→アクチン再結合→ADP+Pi放出→力発生・パワーストローク→共通の機能単位。
これがミオシンスーパーファミリーの「共通のコア機能」であり、進化的に保存されている。
2. クラス間の違いが生じる要因
クラス間の違い(運動速度、方向、力、processivity、輸送対象など)は、主に以下の構造的・生化学的要因で決まる。
主要な違いの決定要因
例:
系統解析で、モータードメイン配列の相同性からクラス分けされ、尾部多様性とkineticsで機能分化が進化した。
アクチンフィラメントに沿ったミオシンの歩行能力は適切な装置をつけた顕微鏡を使うと計測できる。そのような計測はどう行われるかを述べよ.ATPはなぜ必要なのか。このような方法はどのようにしてミオシン運動の方向性の決定やミオシンによって生じる力の測定に利用されるか。
1. ミオシン歩行能力の計測方法(光学トラップ・シングルモレキュール解析)
主に光学トラップ(光ピンセット)法と**全内部反射蛍光顕微鏡(TIRF)**を組み合わせたシングルモレキュール計測が用いられる。
光学トラップ法の手順
- 試料準備:アクチンフィラメントを表面に固定。蛍光ビーズ(直径1μm程度)に単一ミオシン分子(または少数の二量体)を固定。
- トラップ形成:赤外レーザーでビーズを光学トラップに捕捉し、微小変位(nmオーダー)を検出。
- ATP添加:ATP存在下でミオシンをアクチンに接触させ、ビーズの変位・速度をリアルタイム追跡。
- 解析:ビーズ移動距離/時間から速度(nm/s)、ステップサイズ(8nm/ステップ)、processivity(連続歩行ステップ数)を算出。
TIRF法の補助
蛍光標識ミオシンでシングル分子を可視化し、アクチン上を連続歩行する軌跡を直接記録。速度・方向を高解像度で観察。
2. ATPが必要な理由
ミオシンはATP駆動型モーターであり、ATP加水分解サイクルが歩行の原動力:
1. ATP結合 → ミオシン頭部がアクチンから解離
2. ATP加水分解 → コックアップ(パワーストローク準備)
3. ADP+Pi放出 → アクチン再結合・パワーストローク(8nm前進)
4. ADP解離 → 次のATP結合待機
ATPなしでは解離・再結合サイクルが停止し、静止結合状態のみ(rigor状態)。ATPがなければ歩行不能。
3. 方向性決定と力測定への応用
方向性決定
- アクチン固定の向きを逆転させ、ミオシンがどちらの端(+端/-端)に向かって歩くかを判定。
- クラスII・V:+端(barbed end)方向に歩行(生理的)。
- クラスVI:-端(pointed end)方向に逆行(特殊輸送用)。
力測定(ストールフォース)
- 光学トラップの剛性を上げ、ミオシンがビーズを引っ張る力を測定。
- 速度-力関係:負荷力↑で速度↓。ゼロ速度時の最大力(ストールフォース)がミオシン1分子の出力(例:クラスVで1-5pN)。
- パワーストロークサイズ:力発生時の変位量から直接測定。
実測例:
| ミオシンクラス | 速度 (nm/s) | ステップサイズ | ストールフォース | 方向性 |
|---|---|---|---|---|
| クラスV | 200-600 | 36nm | ~1-5pN | +端方向 |
| クラスII | 数μm/s | 5-10nm | 数pN | +端方向 |
| クラスVI | 100-300 | 30-36nm | ~1pN | -端方向 |
これらの手法で、ミオシンのkinetics・力学パラメータが分子レベルで定量化され、輸送・収縮機構の解明に貢献している。
収縮束は非筋細胞にも存在するが,その構造は筋細胞のサルコメアほど整然としていない。非筋細胞の収縮束の目的は何か。
非筋細胞収縮束(ストレスファイバー)の概要
非筋細胞の収縮束(主にストレスファイバー)は、アクチンフィラメントの平行な束(10〜30本程度)と非筋ミオシンIIがα-アクチニンなどで架橋され、細胞底面に沿って焦点接着斑(focal adhesion)を結ぶ構造。筋肉のサルコメアのような規則正しいZ線・Aバンド構造はないが、ミオシンが周期的に分布し、収縮性を有する。
主な目的・機能
非筋細胞の収縮束は、筋収縮のような「全体収縮」ではなく、細胞の機械的応答・運動・形制御に特化している。主要目的は以下の通り。
- 機械的張力伝達と細胞接着強化
細胞外マトリックス(ECM)からの引っ張り力(張力)を焦点接着斑へ伝達し、インテグリン経路を活性化(メカノセンシング)。細胞の伸展・接着安定化を図る。 - 細胞形状維持と変形制御
収縮力で細胞を平坦化・伸長させ、基質接着を強化。非移動性細胞(例:繊維芽細胞)で細胞形を保つ。 - 細胞移動時の推進力・後方引き込み
移動性細胞の後端で収縮し、細胞体を前方へ押し出す。ラメリポディア形成と協調してクロール運動を駆動。 - 力学的応答(メカノトランスダクション)
基質硬さに応じて束が強化・再編成され、YAP/TAZなどの核シグナルを調節(硬い基質で増殖促進)。
筋肉収縮束との比較
| 特徴 | 筋肉サルコメア(筋細胞) | 非筋収縮束(非筋細胞) |
|---|---|---|
| 構造 | 高度整然(Z線・A/Iバンド) | 不整然(平行束、周期的ミオシン) |
| 主目的 | 全身性筋収縮(力・速度重視) | 局所張力伝達・形制御・移動 |
| ミオシン活性 | 恒常的 | リン酸化・Ca2+調節でオンオフ |
| 接着 | 筋繊維間 | 焦点接着斑-ECM |
非筋収縮束は「動的・適応的」な構造で、環境応答型力発生装置として機能する。
ミオシンはどのようにして ATP加水分解によって放出されたエネルギーを機械的仕事に変換するのか。
ミオシンのエネルギー変換機構(レバーアームモデル)
ミオシンはATP加水分解の化学エネルギーをモータードメインでの構造変化→レバーアームの回転運動に変換し、アクチンフィラメントを滑らせる力学的仕事に変える。基本はクロスブリッジサイクルと呼ばれる一連のコンフォメーション変化。
ステップごとの変換過程
1. 弱結合状態(A-M・ADP・Pi)
→ ATP結合でミオシン頭部がアクチンから解離(ATP-M)
2. ATP加水分解(M**・ADP・Pi)
→ モータードメインが大きく変形(Switch-II閉鎖)。この**加水分解時の構造変化がレバーアームを「コックアップ」(後退・上向き)位置にリセット。[web:250][web:257]
3. 強結合形成(A-M・ADP・Pi → A-M・ADP)
→ Pi放出で頭部がアクチンに強く結合。レバーアームが「パワーストローク」(前進・下向き、5-10nm)を起こし、アクチンを引っ張る**力発生(1-5pN)**。[web:250][web:253]
4. ADP解離(A-M)→ 次のATP結合待機(rigor状態)
ATP加水分解の**エキソルム性ΔG(~50kJ/mol)**が、モータードメインのPループ・Switch-I/IIなどの動的ループ変化を駆動し、レバーアームを物理的に回転させる。これがアクチン上での「櫂漕ぎ運動」を生む。
分子構造の役割
- モータードメイン:ATP結合・加水分解部位(Pループ、Switch領域)とアクチン結合部位。加水分解で非対称変形し、方向性運動を保証。
- レバーアーム:モータードメインに連結したαヘリックス+軽鎖(calmodulin)。変形を増幅し、大きなストロークに変換。
- 伝達機構:加水分解時の水分子・塩橋変化がSwitch-IIを閉じ、ADP/Piポケット開口を誘導→レバーアーム傾斜。
効率性と特徴
- 1ATP/1ストローク:ほぼ100%の化学-機械変換効率(外部負荷なし)。
- 方向性:アクチンの極性とミオシン頭部の非対称結合で+端方向に偏る。
- 筋肉以外:非筋ミオシンも同一機構で細胞収縮・輸送を実現。
この化学-力学的共役により、ミオシンは熱ゆらぎの中で一方向運動を精密制御する分子エンジンとして機能する。
ミオシンIIのデューティー比は10%でステップサイズは5~15mmである。それに対して、ミオシンVはもっと高いデューティー比(約70%)をもち、アクチンフィラメント上を36mmのステップで動く。ミオシンIIとミオシンVのどのような違いがこうした運動性の違いをもたらすのだろうか。ミオシンIIとミオシンVの構造の違いや運動性の違いは細胞内での機能の違いとどのように対応しているか。
1. 運動性(デューティー比・ステップサイズ)の違いを生む構造的要因
メカニズム:
- ミオシンII:短いレバーアーム・高速ATPサイクルで速いが、アクチン解離時間が短く(低duty ratio)、多数の分子が協調して力発生(筋収縮用)。
- ミオシンV:長いレバーアームで大ステップ、長いレバーアーム+遅いADP解離で高duty ratio。単一分子で長距離processive歩行可能(「運び屋」)。
2. 構造・運動性の違いと細胞内機能の対応
| ミオシン | 構造・運動特徴 | 細胞内主機能 | 機能的適合性 |
|---|---|---|---|
| ミオシンII | 短ステップ・低duty・二量体 | 筋収縮、非筋収縮束形成(ストレスファイバー、細胞分裂収縮環) | 多数分子協調で大規模力発生。速いサイクルで滑らかな収縮。 |
| ミオシンV | 大ステップ・高duty・processive | 小胞・オルガネラ長距離輸送(ゴルジ→末端輸送、融通性高い) | 単分子で長距離(μmオーダー)連続輸送。途中で脱落せずカーゴ到達保証。 |
具体例:
- ミオシンII:非筋細胞のストレスファイバー収縮で細胞伸展・移動後方引き込み、細胞分裂時の輪状収縮。
- ミオシンV:メラノソーム輸送(皮膚色素細胞)、リボソーム輸送、シナプス小胞輸送。長い尾部ドメインで多様なカーゴ認識。
この構造-運動-機能の完璧な対応により、ミオシンは多様な細胞運動を効率的に分担している。
骨格筋と平滑筋の収縮はともに細胞内のCa²⁺濃度上昇によってひき起こされる。それぞれのタイプの筋肉がCa²⁺濃度上昇を収縮に変換するしくみを比較せよ。
共通点:Ca²⁺が収縮スイッチ
両筋種とも、Ca²⁺濃度上昇がアクチン・ミオシン相互作用を可能にし、ATP加水分解で滑走収縮を起こす。違いはCa²⁺貯蔵庫とCa²⁺感受性タンパク質、調節機構にある。
骨格筋の収縮変換機構
- Ca²⁺源:筋小胞体(SR)から横行小管経由で大量放出(筋小胞体型Ca²⁺放出チャネル:RyR1)。
- Ca²⁺感受性タンパク:トロポニン複合体(トロポニンC, I, T)。
- Ca²⁺がトロポニンCに結合→トロポミオシンの位置変化→ミオシン結合部位露出→アクチン-ミオシン相互作用開始。
- 調節:Ca²⁺ポンプで速やかにSR回収→弛緩。随意制御(神経筋接合部)。
- 特徴:高速・強力、疲労しやすい。
平滑筋の収縮変換機構
- Ca²⁺源:細胞外流入(L型Caチャネル:電位依存性)が主。小胞体(SR)からのIP₃・Ca²⁺誘導性放出も補助。
- Ca²⁺感受性タンパク:カルモジュリン(CaM)。
- Ca²⁺-CaM複合体が**ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)**を活性化→ミオシン軽鎖(MLC)リン酸化→ミオシンATPase活性化→アクチン-ミオシン相互作用。
- 調節:**ミオシン軽鎖ホスファターゼ(MLCP)**で脱リン酸化。Ca²⁺感受性亢進(ROCK経路)で低Ca²⁺でも持続収縮。
- 特徴:低速・持続性、不随意(ホルモン・伸張刺激)。
比較まとめ表
| 項目 | 骨格筋 | 平滑筋 |
|---|---|---|
| Ca²⁺主源 | SR(RyR1) | 細胞外(L型Caチャネル)+SR(IP₃) |
| Ca²⁺感受性 | トロポニン(アクチン調節) | カルモジュリン→MLCK(ミオシンリン酸化) |
| 調節ステップ | トロポミオシン位置変化 | MLCリン酸化/脱リン酸化 |
| 速度・持続性 | 高速・短時間 | 低速・長時間持続(Ca²⁺感受性↑) |
| 制御 | 随意(神経) | 不随意(ホルモン・機械) |
骨格筋は「速攻型」、平滑筋は「持続・適応型」で、Ca²⁺下流調節の違いが機能分化を生む。
いくつかのタイプの細胞はアクチン細胞骨格の駆動力を利用して移動する。その移動に利用されるのはどのようなアクチンフィラメントの集合体か。
移動に利用される主なアクチンフィラメント集合体
細胞移動(クロール移動、アメーバ運動、白血球遊走など)では、**先行端(leading edge)で形成されるアクチンフィラメントの網目状ネットワーク(lamellipodia、ラメリポディア)と平行な束(filopodia、フィロポディア)**が主に利用される。
1. ラメリポディア(葉状仮足)- 網目状ネットワーク
- 構造:Arp2/3複合体によるY字分岐型アクチンネットワーク(枝分かれした短いフィラメントの密集網目)。細胞膜直下に形成。
- 駆動力:+端重合(WASP/N-WASP→Arp2/3核形成)が膜を押し出し、前進推進力発生。トレッドミリングでフィラメント流動。
- 利用例:繊維芽細胞、白血球、マクロファージなどの速いクロール移動。
2. フィロポディア(指状仮足)- 平行束
- 構造:平行に密に束ねられた長フィラメント束(formins/formin-likeタンパク質で+端伸長、fasin/α-actininで架橋)。
- 駆動力:束の伸長+先端接着による引っ張り、環境探知(chemotaxis)。
- 利用例:神経成長円錐、成長因子勾配追跡細胞。
3. 後方支援:収縮束(stress fibers)
移動メカニズムの全体像
先行端:ラメリポディア網目重合 → 膜押し出し・接着形成
中間:フィロポディア探知・伸展
後方:収縮束収縮 → 尾引きずり
これら**分岐網目(lamellipodia)+平行束(filopodia/stress fibers)**の協調が、アクチン駆動移動の基本パターン。細胞種・環境で比率が変わる(例:ケモタキシスではfilopodia優位)。
細胞は特定の方向に動くために、細胞外のシグナルを利用してどの部分を前、どの部分を後とするかを決める。移動する細胞が運動の方向を決定する際に使うシグナル伝達経路に、どのようにGタンパク質が関与しているかについて述べよ。
Gタンパク質の役割:ケモタキシス・方向性決定の中心
細胞移動の方向性(polarity)は、主に**Gタンパク質共役受容体(GPCR)を介したヘテロ三量体Gタンパク質(Gαβγ)**の活性化により制御される。化学勾配(chemotactic gradient)検知からアクチン骨格の非対称再編成までを調整。
主要なシグナル伝達経路とGタンパク質の関与
1. GPCR活性化 → Gタンパク質解離
細胞外化学物質(fMLP, C5a, LTB4など) → GPCR結合
↓
Gタンパク質:GDP-Gαβγ → GTP-Gα + Gβγ(活性化・解離)
Gβγサブユニットが主役となり、下流シグナルを活性化(特に好中球・樹状細胞)。
2. Gβγによる局所的アクチン重合制御(先行端形成)
- PI3キナーゼ(PI3K)活性化:Gβγ → PI3K → PIP₃局所蓄積 → Rac/PI3Kフィードバック → Arp2/3活性化・ラメリポディア形成(前方)。
- PLCβ活性化:Gβγ → PLC → IP₃/DAG → Ca²⁺上昇 → 後方ミオシン活性化・収縮(尾引きずり)。
- 非対称性:勾配の高い側でGβγ活性↑、PIP₃・アクチン重合が前方に偏る。
3. RhoGTPase(Rac/Cdc42/Rho)との連動
Gβγ → PI3K/PIP₃ → Rac/Cdc42活性化(前方)
↓
WASP/N-WASP/PAK → Arp2/3核形成(lamellipodia)
↓
ROCK → ミオシンIIリン酸化(後方収縮)
Gタンパク質がRhoファミリーGTPaseの空間的活性化を誘導し、前方重合・後方収縮のpolarityを確立。
機能的特徴と証拠
- 勾配感受性:ナノモル勾配差でGPCR活性が非対称化(DICイメージング・FRETで確認)。
- 阻害実験:PTX(Gαi阻害)やGβγスカベンジャーで方向性喪失、ランダム遊走。
- モデル:好中球のfMLP勾配追跡でGβγ依存性が確立。
全体像:Gタンパク質は「化学勾配センサー」として働き、Gβγを介して前方アクチン推進・後方収縮の非対称性を生み、細胞の方向性移動を実現する。
細胞の移動は戦車の動きのようである。先行端でアクチンフィラメントが急激に集合して東や網目となり、それが細胞膜を押し出し、細胞は前へ進む、後方では細胞接着が壊され最後尾が前へと引っ張られる。この細胞を動かす牽引力は何によってもたらされているのか。細胞体の移動はどのように行われるのか。細胞が前進するとき、細胞の接着はどのようにして切り離されていくのか。
1. 細胞を動かす主な牽引力
細胞移動の**主な推進力(牽引力)は、先行端(leading edge)でのアクチンフィラメント+端重合による「ポリマー化推進力」**である。
- メカニズム:Arp2/3複合体が分岐核形成→短いアクチンフィラメントが+端で急速伸長→フィラメント先端が細胞膜を物理的に押し出し(~10-50pN/フィラメント)、ラメリポディアを前方へ突出。
- トレッドミリング効果:+端伸長・-端脱重合でフィラメントが「流動」し、膜を連続押し出し。
- 補助力:後方収縮束(ミオシンII駆動)で尾を引きずり、全体を前方へ「引っ張る」。
力のバランス:前方ポリマー化推進力 > 後方粘性抵抗・接着抵抗 → ネット前進。
2. 細胞体の移動メカニズム
細胞体(cell body)の移動は**「後方収縮+前方接着」の協調**による:
- 後方収縮:ストレスファイバー上の非筋ミオシンIIがアクチンバンドルを収縮→後端接着点から細胞体を前方へ引き込む(「戦車のキャタピラ」)。
- 前方接着:新形成ラメリポディアが基質に接着(インテグリン・接着斑)→前方固定点として収縮力を伝達。
- 全体像:前方突出(アクチン重合)→接着形成→後方収縮(ミオシン)→尾剥離→繰り返し。
3. 前進時の接着切り離し機構
後方接着の動的ターンオーバー(形成・成熟・剥離)が連続的に進行:
- 接着成熟:前方で新しい焦点接着斑(focal adhesion)形成(インテグリン活性化、talin/vinculin集積)。
- 後方剥離:ミオシン収縮で張力↑→接着蛋白質リン酸化(FAK/Src)→インテグリン不活性化・タンパク質解離。
- 酵素分解:MMPs(マトリックスメタロプロテアーゼ)がECM結合切断、calpainが接着タンパク質分解。
- 結果:後端接着が速やかに剥離(~数分)され、細胞体が前方へスライド。
まとめ図式:
前方:アクチン重合 → 膜押し出し → 新接着形成
後方:ミオシン収縮 → 張力↑ → 接着剥離(FAK/MMP) → 尾引きずり
このアクチン推進+ミオシン収縮+接着ダイナミクスの三位一体が、効率的なクロール移動を実現する。
問題文引用元:東京化学同人 分子細胞生物学 第6版

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