細胞の構築と運動2:微小管と中間径フィラメント

細胞の構築と運動2:微小管と中間径フィラメント 分子生物学
  1. 微小管は方向性をもったフィラメントである。すなわち、ー端は他端と違っている。この方向性の基盤は何か。この方向性は細胞内の微小の配置とどのように関係しているか。そして、この方向性は微小管上を動くモータータンパク質によって駆動される細胞内運動とどのように関係しているか。
    1. 方向性の基盤
    2. 細胞内配置との関係
    3. モータータンパク質駆動運動との関係
  2. 微小管は in vitro でも in vivo でも動的な不安定性を示す。この重合特性は微小管に固有のものと考えられる。この動的不安定性はどのようにして生じると考えられているか。
    1. 動的不安定性のメカニズム:GTPキャップモデル
    2. GTPキャップモデルの詳細
  3. 証拠と特徴
  4. 細胞内での微小管伸長は、チューブリン濃度や温度だけでなく、他のタンパク質にも依存している。どんなタンパク質が in vitro での微小管の重合に影響を与えるか。それぞれのタンパク質はどのように重合に影響するのか。
    1. 主な調節タンパク質と影響
    2. 詳細メカニズム
  5. 細胞内の微小管は特異的な配置をとるようにみえる。どの細胞構造がこうした微小管の配置を決めているのか。典型的な細胞では、これらの構造はいくつあるか。そのような構造がどのようにして微小管伸長の核となるのか。
    1. 微小管配置を決める構造:MTOC
    2. MTOCが微小管伸長の核となる仕組み
  6. 有糸分裂を阻害する多くの薬剤がチューブリン、微小管あるいは両者に特異的に結合する。どのような病気の治療に、こうした薬剤が使われるか。微小重合への効果という作用面から、こうした薬剤は2グループに分けられる、そのような薬剤が微小の構造を変える二つの機構は何か。
    1. 治療対象疾患:がん(特に固形がん・血液がん)
    2. 微小管重合への効果による2グループ分類と機構
  7. キネシン1はキネシンモーターファミリーの中で最初に同定されたものであり、たぶん最も詳しく研究されているタンパク質である。キネシンを精製するのに、このタンパク質のどんな性質が利用されたか。
    1. キネシン1精製に利用された性質:微小管依存性ATPase活性とモーター活性
    2. 精製の鍵となった性質と手順
    3. なぜこの性質が決定的だったか
  8. ある種の細胞構成要素は微小上で双方向に動くようにみえる。微小管の方向がMTOCによって固定されているとするならば、このことはどのようにして可能になるか。
    1. 双方向運動のメカニズム
      1. 1. 微小管の固定極性
      2. 2. 反対方向モーターの存在
    2. 3. 協調・競合制御
  9. キネシンモータータンパク質の運動性にはモータードメインとリンカードメインの両方が関係している。キネシンの運動,運動の方向,あるいは両者における各ドメインの役割を述べよ。
    1. キネシンの基本構造と運動サイクル
    2. モータードメインの役割(運動の原動力)
    3. ネックリンカードメインの役割(方向性・協調性)
    4. 運動・方向性の統合モデル
  10. 細胞体の遊泳は微小管を含む細胞突起に依存している。これら突起をつくりあげる構造はどのようなものか。遊泳するのに必要な力をこの突起構造はどうやって発生するか。
    1. 微小管を含む遊泳突起の構造:鞭毛・繊毛(9+2構造)
    2. 遊泳力の発生機構:ダイニン駆動の滑り運動
    3. 運動サイクル
  11. 紡錘体は微小を使った細胞機械とよばれることがある。紡錘体を構成する微小は三つの異なるタイプに分類される。この三つのタイプとは何か。それぞれの機能は何か。
    1. 三つのタイプと機能
  12.  紡錘体の機能は微小管モーターに大きく依存している。次に記したモータータンパク質だけを特異的に阻害する薬剤を加えたときに,紡錘体の形成過程、機能,または両方にどのような影響が出るか,予想せよ。キネシン5,キネシン13,キネシン4.
    1. 各キネシンの紡錘体への影響予想
  13. 後期Aにおける動原体(つまり染色分体)の極に向かう運動では、動原体は短縮している微小管と常に結合していなければならない。どのようにして、この結合は雑持されるか。
    1. 動原体-微小管結合の維持機構
    2. 1. 動原体のデポリメラーゼ活動(depolymerization-coupled movement)
    3. 2. 動的不安定性の追従(fluxとrescue)
    4. 3. 張力依存的安定化(tension stabilization)
  14. 後期Bでは紡錘体極の分離が起こる。どんな力がこの分離を駆動していると考えられているか。これらの力を生み出す分子機構はどのようなものと考えられているか。
    1. 1. 極間滑り(interpolar sliding)による外向き推進力
    2. 2. 星状体微小管と皮質との相互作用による牽引力
    3. 3. 分子レベルでの統合モデル
    4. まとめ
  15. 細胞質を分割する細胞質分裂は、分離した姉妹染色分体が対向している紡錘体極に近づくや否や始まる。細胞質分裂の分裂面はどのように決められるのか。細胞質分裂で微小管とアクチンフィラメントはそれぞれどんな役割を担っているか。
    1. 分裂面の決定機構
    2. 微小管の役割
    3. アクチンフィラメントの役割
    4. まとめ
  16. 中間径フィラメント上を運動するモーターがないのはなぜか
    1. 1. 極性を持たない構造
    2. 2. 静的で動的不安定性がない
    3. 3. モノマー多様性と非規則配列
    4. 4. 機能的分化

微小管は方向性をもったフィラメントである。すなわち、ー端は他端と違っている。この方向性の基盤は何か。この方向性は細胞内の微小の配置とどのように関係しているか。そして、この方向性は微小管上を動くモータータンパク質によって駆動される細胞内運動とどのように関係しているか。

微小管の方向性は、チューブリンの非対称配列と重合特性に由来する。

方向性の基盤

微小管はα-チューブリンとβ-チューブリンのヘテロ二量体が、常に同じ向き(α→β方向)で直列に重合して13本のプロトフィラメントが筒状に並んだ構造を持つ。

  • プラス端(+端):β-チューブリンが露出、重合・脱重合速度が速くGTP水解後の不安定性が高い(動的)。
  • マイナス端(-端):α-チューブリンが露出、重合・脱重合速度が遅く安定(γ-チューブリンがキャップ)。

この極性により、微小管は「頭(+)と尻尾(-)」を持ち、トレッドミリング(+端伸長・-端短縮)が可能。

細胞内配置との関係

細胞内の微小管は、中心体(MTOC:マイナス端中心核)から放射状に伸び、プラス端が細胞外側・末端に達する

  • 間期細胞:中心体近傍に-端が集約、+端が細胞膜・周縁部へ。
  • 軸索:+端遠位指向でキネシン輸送効率化。
  • 樹状突起:極性混在(+端遠位も一部)。
    この配置により、微小管は細胞全体の「高速道路網」を形成し、中心体→末梢への一方向輸送を可能にする。

モータータンパク質駆動運動との関係

微小管の極性は、モーターの方向性を決定し、双方向輸送を実現する。

  • キネシン(主にKIF家族):+端方向(順行性)へ小胞・ミトコンドリア・mRNAを輸送(例:軸索遠位へ)。
  • ダイニン:-端方向(逆行性)へ輸送(例:軸索近位回収)。
モーター方向性主な輸送cargo細胞内役割 
キネシン-1等+端(遠位)小胞、オルガネラ軸索伸長、栄養供給
ダイニン-端(近位)回収小胞、軸索輸送リサイクル、中心体集約

この極性対応により、細胞は長距離輸送を効率化(例:軸索数mmでキネシン順行・ダイニン逆行)。極性逆転変異で輸送障害が生じる。

微小管は in vitro でも in vivo でも動的な不安定性を示す。この重合特性は微小管に固有のものと考えられる。この動的不安定性はどのようにして生じると考えられているか。

動的不安定性のメカニズム:GTPキャップモデル

微小管の動的不安定性(成長(緩徐伸長)と急速収縮(catastrophe)のスイッチング)は、β-チューブリン結合GTPの加水分解とそれに伴う構造変化によって駆動される。

GTPキャップモデルの詳細

成長中:GTP-チューブリン重合 → 先端に「GTPキャップ」形成 → 安定 
↓ GTP加水分解(重合後)
GDP-チューブリン主体のシャフト + GTPキャップ先端
↓ キャップ喪失(加水分解追いつく)
急速収縮(catastrophe):GDP-チューブリン露出 → 構造崩壊
↓ レスキュー(rescue)
新規GTP-チューブリン追加 → キャップ再形成 → 成長再開
  • GTP-チューブリン:直線的で隣接プロトフィラメントとの横結合が強く、安定した筒状構造を維持。
  • GDP-チューブリン:加水分解後、プロトフィラメントが外側に反り返り(protofilament curling)、筒が解けやすくなる不安定構造に変化。

キャップ喪失のトリガー

  • 加水分解速度が重合速度に追いつくと、+端でGDP-チューブリンが露出 → 急速脱重合(μm/分オーダー)。
  • in vitroではランダム発生、in vivoでは+TIPs(EB1など)で制御。

証拠と特徴

  • GMPCPP微小管(GTP非加水分解アナログ):キャップ永続で不安定性消失。
  • cryo-EM:GDP・Pi中間体で構造緩み、GDPで明らかなcurling確認。
  • 微小管固有:アクチン(ATP)でも類似するが、GTP加水分解速度・構造変化の特異性が顕著。

このGTP加水分解連動型不安定性が、微小管のサーチ・キャプチャ戦略(有糸分裂紡錘体形成など)を可能にし、細胞骨格のダイナミクス基盤となっている。

細胞内での微小管伸長は、チューブリン濃度や温度だけでなく、他のタンパク質にも依存している。どんなタンパク質が in vitro での微小管の重合に影響を与えるか。それぞれのタンパク質はどのように重合に影響するのか。

微小管の重合は純粋なチューブリンのみでは不安定だが、微小管関連タンパク質(MAPs)が加わると安定化・加速される。主要なものは以下の通り(in vitro再構成実験で確認)。

主な調節タンパク質と影響

タンパク質分類重合への影響メカニズム 
EB1 (+TIPs代表)プラス端追跡促進(成長加速、カタストロフ抑制)GTPチューブリン様先端に特異結合→伸長促進、rescue頻度↑。成長速度1.5-2倍。
XMAP215 (chTOG/Stu2p)ポリメラーゼ強力促進(成長速度大幅↑)TOGドメインで複数チューブリン二量体同時結合→+端への連続付加(polymerase)。成長速度3-10倍。
古典的MAPs (MAP2, Tau, MAP1B)全長安定化安定化(成長促進、カタストロフ↓)微小管格子に沿って横結合強化→プロトフィラメント安定、成長持続。
Stathmin/Op18脱重合促進抑制(成長↓、カタストロフ↑)チューブリン二量体高親和性結合→重合単位隔離、臨界濃度↑。
TPX2核形成促進核形成促進(成長間接促進)微小管核形成加速→伸長基盤提供。有糸分裂特異。

詳細メカニズム

  • 成長促進系(EB1, XMAP215):+端特異的に作用し、GTPキャップ安定化・チューブリン付加加速。EB1は+TIPsリクルートで相乗効果。
  • 安定化系(Tau/MAP2):全長横結合でGDP-チューブリンのcurling抑制、カタストロフ頻度↓。
  • 抑制系(Stathmin):二量体プール減少で成長停止誘導(ストレス応答用)。

in vitro証拠:TIRF顕微鏡再構成で、XMAP215添加で成長速度10μm/min超、EB1でrescue頻度↑が定量確認。
これらMAPsの濃度・競合で動的不安定性が精密制御され、細胞内伸長を実現する。

細胞内の微小管は特異的な配置をとるようにみえる。どの細胞構造がこうした微小管の配置を決めているのか。典型的な細胞では、これらの構造はいくつあるか。そのような構造がどのようにして微小管伸長の核となるのか。

微小管配置を決める構造:MTOC

微小管の特異的配置を決めるのは微小管形成中心(MTOC:Microtubule Organizing Center)である。

  • 典型的な動物間期細胞1個のMTOC(中心体:centrosome)。中心体は一対の中心小体(centriole)と周囲のペリセントリオール物質(PCM)からなり、細胞中心に位置。
  • 分裂期:中心体が複製され2個になり、紡錘体極を形成(一部細胞で染色体近傍など補助MTOCも)。
  • 特殊細胞:神経細胞軸索(複数非中心体MTOC)、植物細胞(分散型MTOC)など多様だが、典型例は「1個」。

MTOCが微小管伸長の核となる仕組み

MTOCはγ-チューブリン環状複合体(γ-TuRC)を高濃度に含み、これが微小管のマイナス端核形成テンプレートとして働く。

1. γ-TuRC構造:γ-チューブリンが13本放射状配列(微小管プロトフィラメント数と一致)。
2. PCMに固定:中心体のペリセントリオール物質(PCM)に多数のγ-TuRCが集積。
3. 核形成:γ-TuRCにα/β-チューブリン二量体が同じ向きで重合開始 → マイナス端固定の微小管が放射状に伸長(+端外向き)。
  • 結果:全微小管のマイナス端がMTOCに集約され、プラス端が細胞外側へ向かう整然配置が実現。
  • 証拠:中心体除去で微小管配列乱れ、γ-TuRC過剰発現で核形成↑(in vitro/生細胞)。

このMTOC依存性が、細胞極性・紡錘体形成・輸送路網の基盤となっている。

有糸分裂を阻害する多くの薬剤がチューブリン、微小管あるいは両者に特異的に結合する。どのような病気の治療に、こうした薬剤が使われるか。微小重合への効果という作用面から、こうした薬剤は2グループに分けられる、そのような薬剤が微小の構造を変える二つの機構は何か。

治療対象疾患:がん(特に固形がん・血液がん)

これらの微小管標的薬剤は、主にがん治療で用いられる。正常細胞より分裂頻度の高いがん細胞の有糸分裂を特異的に阻害し、アポトーシスを誘導するからである。

  • ビンカアルカロイド系(ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン):急性リンパ芽球性白血病、非ホジキンリンパ腫、肺がん、乳がん。
  • タキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル):乳がん、卵巣がん、非小細胞肺がん、胃がん。
  • その他:エピソディル(エピルビシン)、エリブリン(海洋由来)も同様の適応。

微小管重合への効果による2グループ分類と機構

微小管ダイナミクス(重合・脱重合)阻害という共通機序だが、重合促進群 vs 重合阻害群に分けられる。それぞれが微小管構造を異なる機構で固定化する。

グループ代表薬剤重合への効果微小管構造変化機構 
安定化群タキサン系(パクリタキセル)重合促進・脱重合阻害β-チューブリンの内側腔面に結合→プロトフィラメント横結合強化→動的不安定性消失(GTPキャップ不要で安定筒形成)。紡錘体異常形成。
脱安定化群ビンカアルカロイド系(ビンクリスチン)重合阻害・脱重合促進β-チューブリン二量体に結合→二量体間/プロトフィラメント間結合阻害→短小不安定微小管のみ形成。核形成・伸長不能。

共通結果:どちらも微小管ダイナミクス停止→紡錘体チェックポイント活性化→M期停止→アポトーシス。安定化群は「過剰安定」、脱安定化群は「過剰不安定」でがん細胞分裂をブロック。

キネシン1はキネシンモーターファミリーの中で最初に同定されたものであり、たぶん最も詳しく研究されているタンパク質である。キネシンを精製するのに、このタンパク質のどんな性質が利用されたか。

キネシン1精製に利用された性質:微小管依存性ATPase活性とモーター活性

キネシン1(従来型キネシン、KHC)は1985年にウッドロウ・ブリディらによって神経軸索細胞質からの微小管滑走活性を利用して精製された。

精製の鍵となった性質と手順

  1. ATP依存性微小管滑走活性
    • 軸索細胞質にATPと微小管を加えると、微小管が高速(~1μm/s)で一方向(+端方向)に移動する現象を観察。
    • この運動を担う活性分子を追跡精製。
  2. 精製プロトコル
    • 粗抽出:神経軸索細胞質(スクイッド軸索など)をATPで抽出。
    • 微小管親和性精製:微小管を添加しATPで運動誘導 → 微小管に結合した活性分子を塩で溶出(微小管結合性)。
    • ATPase活性モニタリング:微小管存在下でのATPase活性(微小管刺激性)で画分追跡。
    • sucrose密度勾配:110kDa二量体として単一バンド精製。

なぜこの性質が決定的だったか

  • 特異性:微小管非依存ATPaseは多数あるが、微小管依存性ATPase + 微小管滑走という二重特性がキネシン固有。
  • processivity:単分子レベルで長距離移動可能 → 少量で顕著活性検出。
  • +端方向性:アクチン-ミオシン系と明確区別。

この「微小管刺激性ATPase活性 + ATP駆動微小管滑走」というユニークな性質により、細胞質の複雑混合物からキネシンを単離・同定できた。電子顕微鏡で二頭六脚構造も確認され、分子モーターとしての本質が即座に明らかになった。

ある種の細胞構成要素は微小上で双方向に動くようにみえる。微小管の方向がMTOCによって固定されているとするならば、このことはどのようにして可能になるか。

微小管の方向性はMTOC(中心体)から放射状に固定されているが、双方向運動は反対方向に進む2種類のモータタンパク質(キネシンとダイニン)が同じ微小管上で協調/競合することで可能になる。

双方向運動のメカニズム

1. 微小管の固定極性

  • MTOCがマイナス端核 → 全微小管のプラス端が細胞外側へ一方向に指向
  • 小胞・オルガネラは、この単一極性レール上を移動。

2. 反対方向モーターの存在

モーター方向性機能例
キネシン(主にKinesin-1, KIF5)プラス端方向(遠位/順行)小胞・ミトコンドリアを軸索末端へ輸送
ダイニン(細胞質ダイニン)マイナス端方向(近位/逆行)使用済み小胞をMTOC/細胞体へ回収

3. 協調・競合制御

  • 同一cargoに両モーター同時搭載:キネシンとダイニン(+dynactin)が小胞上に共存。
  • 引っ張り合い(tug-of-war)モデル
    • 力・活性の強いモーターが優勢 → ネット方向決定。
    • 負荷・リン酸化・適応子(例:dynactin, LIS1)で調節。
  • 適応子介在モデル:dynactinが両モーターを連結、順次活性化で方向スイッチ。

結果:軸索ではキネシン優勢で遠位へ、逆行時はダイニン優勢で近位回収。MTOC固定の単極性レール上でも、モーターの双方向性により双方向輸送が実現する。

このシステムにより、細胞は長距離物質輸送を効率化(例:軸索数cmで順行・逆行リサイクル)。モーター欠損で輸送停滞が生じる。

キネシンモータータンパク質の運動性にはモータードメインとリンカードメインの両方が関係している。キネシンの運動,運動の方向,あるいは両者における各ドメインの役割を述べよ。

キネシンの基本構造と運動サイクル

キネシン(特にキネシン-1)は二量体構造を持ち、モータードメイン(motor domain)ネックリンカードメイン(neck linker)が協調して微小管上のhand-over-hand歩行を実現する。

モータードメインの役割(運動の原動力)

  • 位置:各重鎖のN末端に位置するATPaseドメイン(~340aa)。
  • 機能
    • 微小管結合:微小管のβ-チューブリンに特異的に結合。
    • ATP加水分解:ATP結合→加水分解でコンフォメーション変化(Switch I/IIヘルックス変形)。
    • 力発生:パワーストロークで8-16nm前進。
  • 運動サイクル
    1. ATP結合 → 後続頭が微小管から解離。
    2. 加水分解 → コックアップ(次ステップ準備)。
    3. Pi/ADP放出 → 先頭頭が強結合・パワーストローク。

ネックリンカードメインの役割(方向性・協調性)

  • 位置:モータードメインC末端の短い柔軟領域(~13-15aa)とネック領域(二量体化コイルドコイル)。
  • 機能
    • 方向性決定:ATP結合時にネックリンカーが微小管+端方向にドッキング(zipper化)し、後続頭を前方へ偏向(forward bias)。
    • 頭間協調:先頭頭のネックリンカードッキングが後続頭の微小管結合を誘導(processivity確保)。
    • 二足歩行:ネック領域の剛性が両頭の交互運動を強制。

運動・方向性の統合モデル

1. 先頭頭:強結合(no nucleotide) → 後続頭解離(ATP結合)
2. ネックリンカードッキング → 後続頭を+端へ36nm前方バイアス
3. 後続頭:微小管再結合 → 先頭頭ATP結合・解離 → 交代
  • 運動:モータードメインのATPサイクルがステップ駆動、ネックリンカーがタイミング・方向制御。
  • +端方向性:ネックリンカーの非対称ドッキングが逆方向(-端)を構造的に禁止。

ネックリンカー欠損でprocessivity喪失、モータードメイン変異で運動停止が生じる。このドッキングモデルがキネシンの高速・長距離輸送を可能にする。

細胞体の遊泳は微小管を含む細胞突起に依存している。これら突起をつくりあげる構造はどのようなものか。遊泳するのに必要な力をこの突起構造はどうやって発生するか。

微小管を含む遊泳突起の構造:鞭毛・繊毛(9+2構造)

細胞遊泳に用いられる突起は鞭毛(flagella:長く少ない)と繊毛(cilia:短く多い)で、内部に9+2軸糸構造を持つ。

  • 9+2軸糸
    • 9対の周辺二連微小管(A管+B管)が円周状に配列。
    • 中心対微小管(2本)が中央に位置。
  • 基部:基体(basal body:中心小体由来)に固定され、回転・屈曲の支点。
  • 周辺二連微小管間にネキシンリンク、中心対と周辺間に放射状スポーク、ネックスリンクで剛性・制御。

遊泳力の発生機構:ダイニン駆動の滑り運動

遊泳力はダイニン(dynein)モータータンパク質による隣接微小管間のATP依存性滑りで生じる。

運動サイクル

1. 外腕ダイニン/内腕ダイニン:周辺二連微小管A管に固定、ATP結合→加水分解でB管をマイナス端方向へ滑らせる。
2. 滑りによるたわみ:ネキシンリンク/スポークが伸張・屈曲を伝播 → 軸糸全体の波状変形。
3. 波伝播:有効ストローク(推進力発生)→回復ストローク(抵抗最小)の非対称波動。
  • 鞭毛:非対称屈曲波(principal+reverse bend)で螺旋推進(精子遊泳)。
  • 繊毛:協調的metachronal波(位相差)で流体推進/遊泳(ゾウリムシ)。

力の源:ダイニンのATPaseサイクル(1ATP/数nm滑り)が微小管滑りを駆動、軸糸の弾性+流体力学的非対称性で推進力に変換。基体の固定がトルクを遊泳力に変換。

紡錘体は微小を使った細胞機械とよばれることがある。紡錘体を構成する微小は三つの異なるタイプに分類される。この三つのタイプとは何か。それぞれの機能は何か。

紡錘体を構成する微小管は、動原体微小管(kinetochore microtubules)極微小管(polar/interpolar microtubules)、星状体微小管(astral microtubules)の三つに分類される。

三つのタイプと機能

タイプ特徴・接続主な機能
動原体微短管中心体から染色体のキネトコア(動原体)に直接連結(20-40本/繊維)。紡錘体の約5%。染色体の引っ張り・分離:アナフェーズで短縮し姉妹染色分体を両極へ引き離す。紡錘体チェックポイントで張力検知。
極微小管中心体から発し、反対側の中心体へ向かう(互いに平行/逆平行)。紡錘体の約95%。最も動的。紡錘体長軸維持・伸長:極間推力(キネシン-5による滑り)で紡錘体を伸ばし、染色体配置を安定化。
星状体微小管中心体から放射状に細胞皮質へ向かう。紡錘体位置決め・極定位:皮質ダイニンとの相互作用で中心体を細胞極へ引き寄せ、紡錘体を細胞中心に配置。

これら三者が協調し、染色体の正確な分配を実現。動原体微小管が「引っ張り」、極微小管が「枠組み」、星状体微小管が「位置決め」を担う。

 紡錘体の機能は微小管モーターに大きく依存している。次に記したモータータンパク質だけを特異的に阻害する薬剤を加えたときに,紡錘体の形成過程、機能,または両方にどのような影響が出るか,予想せよ。キネシン5,キネシン13,キネシン4.

各キネシンの紡錘体への影響予想

紡錘体形成・機能はキネシンの協調で制御される。特異的阻害時の影響を以下に示す。

キネシン主機能阻害時の紡錘体影響
キネシン-5 (Eg5/KIF11)反平行極微小管の滑り分離 → 中心体分離・双極紡錘体形成モノポーラ紡錘体形成。中心体分離不能、単極星状体のみ。形成過程(前期)完全停止。
キネシン-13 (MCAK/KIF2A/CENP-E等)動原体/極微小管の脱重合促進 → 極間伸長・染色体引っ張り力紡錘体短縮・不安定化。カタストロフ頻度↓で過剰安定、染色体分離力低下。中期~アナフェーズ障害。
キネシン-4 (KIF4A)染色体上微小管集束・極間推力補助 → 染色体配置・紡錘体長維持染色体散乱・紡錘体長異常。中期染色体集束不全、紡錘体形状乱れ。機能障害主。

メカニズム詳細

  • キネシン-5阻害:極微小管の推力喪失で双極性崩壊(monastrol表現型)。
  • キネシン-13阻害:脱重合不能で紡錘体動態停止、染色体振動増大。
  • キネシン-4阻害:染色体アライメント不全で紡錘体チェックポイント活性化遅延。

これら阻害はM期停止を誘導し、抗がん剤標的として利用される。

後期Aにおける動原体(つまり染色分体)の極に向かう運動では、動原体は短縮している微小管と常に結合していなければならない。どのようにして、この結合は雑持されるか。

動原体-微小管結合の維持機構

後期Aでは動原体微小管(kMTs)が短縮しながら染色分体を紡錘体極へ引っ張るが、動原体の「デポリメラーゼ活動」と「動的結合機構」により結合が維持される。

1. 動原体のデポリメラーゼ活動(depolymerization-coupled movement)

  • 主要因子:動原体上(特にNdc80複合体、Dam1/DASH複合体、Ska複合体)が微小管+端にリング/カフ状に結合。
  • 機構kMT +端(動原体側)で脱重合 → プロトフィラメントが外反(curling) ↓ 動原体因子がcurlingを「追従」 → 「サーフィン」のように端に乗り続け 結果:短縮微小管に「滑らず」結合持続(pac-manモデル)
  • 力発生:脱重ポリメーション時の構造変化が~数pNの引っ張り力を生む。

2. 動的不安定性の追従(fluxとrescue)

  • kMTは後期Aでも連続脱重合(poleward flux)しつつ、一部でrescue(再成長)が起こり、全体長を維持。
  • 動原体は伸長期・短縮期の両方で結合を保持(例:酵母Dam1は成長端でも安定結合)。

3. 張力依存的安定化(tension stabilization)

  • 両極からの引っ張り張力で動原体タンパク質(Ndc80, CENP-T等)の微小管親和性↑。
  • Aurora Bキナーゼ:張力不足の誤結合をリン酸化で解除(error correction)。

結果:動原体は微小管+端の「構造的変形(curling)に追従しつつ張力で強化」され、短縮中も脱落せず極移動を実現。この「デポリメレーション駆動型引っ張り」が後期Aの核心機構である。

後期Bでは紡錘体極の分離が起こる。どんな力がこの分離を駆動していると考えられているか。これらの力を生み出す分子機構はどのようなものと考えられているか。

1. 極間滑り(interpolar sliding)による外向き推進力

力の源:極微小管(interpolar microtubules)の重なり領域で、反対方向の微小管が互いに滑る。
主要モーターキネシン-5(Eg5, KIF11)

  • キネシン-5は四量体モーターで、両端が微小管に結合できる。
  • 反平行に配置された極微小管上を+端方向へ歩むことで、2本の微小管を外向きに押し分ける。
  • 結果として、左右の紡錘体極を互いに遠ざける外向き推進力(outward sliding force)を発生させる。

補助因子:キネシン-6, キネシン-12も伸長後期に寄与し、微小管の重なり維持・安定化を補助する。

2. 星状体微小管と皮質との相互作用による牽引力

力の源:星状体(astral microtubules)と細胞皮質の相互作用。
主要モーターダイニン(cytoplasmic dynein)

  • 星状体微小管の+端が細胞皮質に達し、ダイニンがその端部に固定される。
  • ダイニンは微小管上を-端方向(中心体側)に歩くことで、紡錘体極ごと細胞端へ引っ張る
  • 両側皮質で同時に働くと、左右の極は外向きに引き離される。

このダイニン駆動の「外向き牽引力(cortical pulling force)」が、内部のキネシン-5滑り力と協調して極分離を強化する。

3. 分子レベルでの統合モデル

後期Bの紡錘体極分離は、以下の2種類の分子モーターの協働で駆動されると考えられる。

機構主なモーター力の方向働き
極間滑り(内部)キネシン-5外向き押し出し反平行微小管を滑らせて極を遠ざける
皮質牽引(外部)ダイニン外向き引き星状体微小管で極を細胞周縁へ引き寄せる

さらに、極の安定化にはNuMA・PRC1といった微小管架橋タンパク質が関与し、反平行微小管束の維持と力伝達を支えている。

まとめ

後期Bでの紡錘体極分離の駆動力は

  1. キネシン-5による極間微小管の外向き滑り力と、
  2. 皮質固定ダイニンによる星状体微小管の外向き牽引力
    の両方によって生じる。
    これらのモーターの協調的な活動が、紡錘体を伸長させ、細胞質分裂の準備として二つの娘核を細胞の両端へと配置する。

細胞質を分割する細胞質分裂は、分離した姉妹染色分体が対向している紡錘体極に近づくや否や始まる。細胞質分裂の分裂面はどのように決められるのか。細胞質分裂で微小管とアクチンフィラメントはそれぞれどんな役割を担っているか。

細胞質分裂(cytokinesis)は、姉妹染色分体が対向する両極に移動するとほぼ同時に始まり、細胞質を二つに分ける過程である。分裂面の位置決定と、微小管およびアクチンフィラメントの役割は次のようにまとめられる。

分裂面の決定機構

分裂面は紡錘体の中央部(中央紡錘体: central spindle)によって決まる。

  • 紡錘体の後期(anaphase)に、両極から伸びた極微小管が細胞中央で重なり合い、中央紡錘体を形成する。
  • この領域に局在するPRC1やキネシン-6(MKLP1)が、位置情報を伝える信号複合体を集中させる。
  • 代表的なのが、RhoAを活性化するEct2(GEF)であり、これにより分裂面付近にRhoA-GTPの濃度が局所的に高まる。
  • 活性化RhoAは下流因子を通じてアクチン重合とミオシンII活性化を同時に誘導し、収縮環(contractile ring)が形成される。
  • これにより、分裂面は常に二つの紡錘体極のほぼ中間(赤道面)に位置するように決定される。

微小管の役割

  • 微小管は主に位置情報と収縮リング形成の足場を提供する。
  • 中央紡錘体の反平行に重なった極微小管は、Ect2やRhoA活性化複合体の局在場所を指定し、アクチン収縮リングの形成位置を誘導する。
  • 一方、星状体微小管(astral microtubules)は細胞皮質との相互作用を通じて分裂面の左右対称性を微調整し、分裂溝の位置が正確に中央にくるよう制御する。

アクチンフィラメントの役割

  • アクチンフィラメントは実際に細胞質を締め付ける収縮運動の主役である。
  • RhoA活性化により、mDia2を介してアクチンが重合し、ROCK経路を介してミオシンIIがリン酸化され活性化される。
  • ミオシンIIがアクチンフィラメント間を滑らせることで、収縮環が細胞膜を内側へ引き込み(furrow ingression)、最終的に二つの娘細胞へ分離する。

まとめ

  • 分裂面の位置は紡錘体(微小管)によるRhoA局所活性化信号によって決定される。
  • 微小管は「分裂面の座標を設定する情報源」として働き、
  • アクチンとミオシンは「その位置で細胞を締め付ける力の発生器」として機能する。
    この精密な位置決定と力発生の連携が、細胞質分裂の正確性を保証している。

中間径フィラメント上を運動するモーターがないのはなぜか

中間径フィラメント(intermediate filaments: IF)上を運動するモータータンパク質が存在しない主な理由は、その構造的・動態的な特性に起因する。

1. 極性を持たない構造

  • 微小管やアクチンフィラメントは明確なプラス/マイナス端の極性を持ち、キネシン・ダイニン(微小管)やミオシン(アクチン)が一方通行で歩行可能。
  • 中間径フィラメントは非極性(両端対称)。二量体が逆向きに並列重合するため、方向性を認識するモーター結合部位が存在しない。

2. 静的で動的不安定性がない

  • 微小管・アクチンはGTP/ATP加水分解連動の動的不安定性で高速動態変化。
  • IFは極めて安定(重合・脱重合速度が極めて遅い)。主に機械的強度・耐張力のためで、輸送レールとしてのダイナミクス不要。

3. モノマー多様性と非規則配列

  • IFはケラチン、ビメンチン、ネフロ、核ラミンなど70種以上の多型モノマーからでき、細胞種・状況で組成が変わる。
  • プロトフィラメントが非規則的に8本バンドル化するため、モーターの特異的結合面が形成されない。

4. 機能的分化

  • IFの主役割は細胞の機械的強度・応力耐性(核形状維持、接着伝達)。
  • 輸送は微小管系、収縮・変形はアクチン系に特化。IFはこれらを架橋・組織化する補助構造。

結果:IFは「動くレール」ではなく「強靭なロープ」として進化。モーター不要で、アクチン・微小管との相互作用で間接的に力伝達を行う。IF欠損で細胞破裂しやすいが、輸送障害は生じない。

問題文引用元:東京化学同人 分子細胞生物学 第6版

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