- 次の病原体がそれぞれの有利になるように、宿主の免疫系を無力にしたり操作する方法を述べよ。(a)黄色ブドウ球菌の病原株(b)エンベロープをもつウイルス
- 微生物の攻撃から内側の組織を保護するための主な機械的化学的防御を確認せよ。
- 補体活性化の古典的経路と第二経路を比較せよ。
- Emil von Behring は、1905 年にどのような証拠から抗体と補体を発見したか。
- オプソニン化とは何か。この過程で抗体の役割は何か。
- B細胞で、再編成したV遺伝子だけが転写されることを保証するしくみは何か。
- プレB細胞で、いったん生産的な免疫グロブリン重鎖遺伝子断片の再編成が起こると、別の対立遺伝子の重鎖遺伝子のさらなる再編成が阻止されるしくみは何か。
- 抗体はどのようにして、産生中のIgM抗体から他のアイソタイプの抗体へとクラススイッチするのか。
- 抗体応答の親和性成熟を支える生化学的しくみは何か。
- MHCクラスIとクラスⅡ分子の構造を比較せよ。どのような種類の細胞がそれぞれのMHCクラスの分子を発現するのか。それらの機能は何か。
- MHCクラスⅠ拘束経路を経た抗原プロセシングと提示の六つの段階を述べよ。
- MHCクラスⅡ拘束経路を経た抗原プロセシングと提示の六つの段階を述べよ。
- 段階3:MHCクラスII分子の合成(ER)
- 段階4:MHCクラスIIのエンドソーム系への輸送
- 段階5:エンドソーム内でのペプチドローディング(会合)
- 段階6:細胞表面への輸送とCD4 T細胞への提示
- まとめ
- 自己反応性のT細胞が胸腺から出て行くのを阻止するのは何か。
- 胸腺での負の選択
- 自己抗原を提示する細胞
- 「阻止」の実体:アポトーシス(クローン除去)
- もう1つの出口制御:制御性T細胞への分化
- まとめ
- T細胞を介した自己免疫疾患はMHCクラスⅡ遺伝子の特別な対立遺伝子と関連する理由を説明せよ。
- 前提:MHCクラスIIの役割
- 理由1:対立遺伝子ごとの“ペプチド結合溝”の違いが、提示される自己ペプチド集合を変える
- 理由2:胸腺での負の選択(中枢性自己寛容)に穴が生じうる
- 理由3:末梢での炎症条件下で自己抗原提示が増えると、遺伝的に有利な提示が発火点になる
- どのように抗原提示細胞とヘルパーT細胞はB細胞の活性化に関与するのか。
- 抗原提示細胞(APC)が担う段階:ヘルパーT細胞の“プライミング”
- ヘルパーT細胞が担う段階:B細胞への“同義的(cognate)ヘルプ”
- B細胞活性化を進める主要シグナル(接触依存+サイトカイン)
- まとめ
次の病原体がそれぞれの有利になるように、宿主の免疫系を無力にしたり操作する方法を述べよ。(a)黄色ブドウ球菌の病原株(b)エンベロープをもつウイルス
(a)黄色ブドウ球菌(病原株)
- 抗体を逆向きに持たせて食細胞に食べられにくくする(Protein A)
黄色ブドウ球菌のProtein A(SpA)は、抗体(IgG)のFc部分に結合して、食細胞が抗体を目印にして菌を取り込む(オプソニン化→貪食)流れを邪魔します。 - 補体(血中の攻撃カスケード)を止めて、目印付けや炎症シグナルを弱める(SCINなど)
黄色ブドウ球菌は補体系を妨害する因子を持ち、補体の中心反応(例:C3コンバターゼの働き)を阻害して、菌表面へのC3b沈着などを弱める方向に働きます。 - 白血球が現場に集まるのを妨害する(CHIPSなど)
黄色ブドウ球菌はCHIPSのような因子で好中球などの遊走(ケモタキシス)に関わる受容体を妨害し、炎症部位に防御側の細胞が集まりにくくします。 - 「かたまり(バイオフィルム)」を作って免疫細胞の働きを鈍らせる
黄色ブドウ球菌はバイオフィルムを形成でき、感染モデルではマクロファージ機能不全や細胞死など、自然免疫の働きを弱める方向の現象が報告されています。 - 盾を作って抗体や補体を見えにくくする(Efbなどの例)
黄色ブドウ球菌のEfbは、補体C3bとフィブリノゲンを利用して菌表面にカプセル様の盾を作り、表面に付いたC3bや抗体が食細胞受容体に認識されにくくなる仕組みが示されています。
(b)エンベロープをもつウイルス
- MHC I(掲示板)を減らして、キラーT細胞に見つかりにくくする
MHCクラスI(HLAクラスI)は、多くの細胞が「細胞内で作られたタンパク質の断片(ペプチド)」を表面に提示する仕組みで、キラーT細胞(CD8 T細胞)はそれを見て感染細胞を認識します。
多くのウイルスはMHC I抗原提示経路を妨害して感染細胞のMHC I提示を低下させ、キラーT細胞からの攻撃を回避します。 - 補体から逃げる:宿主の補体ブレーキをエンベロープに取り込む
エンベロープウイルスでは、CD55やCD59などの補体制御因子をウイルス膜に取り込むことで補体による中和・破壊を受けにくくする戦略が示されています。 - 表面タンパク質を糖で覆う(グライカンシールド)+変異で逃げる(抗原変異)
エンベロープ上の糖鎖(グライカン)が抗体の結合を物理的に邪魔し、抗体中和を受けにくくする「グライカンシールド」が報告されています。
さらにウイルスでは、表面抗原に変異がたまり抗体が効きにくくなる「抗原変異(例:抗原ドリフト)」が免疫回避に使われます。 - インターフェロンなど初動の警報を弱める(ウイルス一般の代表戦略)
ウイルスは、インターフェロンや補体などの自然免疫の主要因子を標的にして免疫回避する、という全体像が古くから整理されています。
まとめ
(a)黄色ブドウ球菌は、抗体・補体・白血球の動員を多方面から妨害し、食菌・殺菌を成立しにくくします。
(b)エンベロープウイルスは、「キラーT細胞に見つからない(MHC I低下)」+「体液性免疫(補体・抗体)から逃げる(補体制御因子の取り込み、糖鎖シールド、抗原変異など)」で有利になります。
微生物の攻撃から内側の組織を保護するための主な機械的化学的防御を確認せよ。
機械的(物理的)防御
- 皮膚・粘膜:皮膚や粘膜の上皮はバリアとして働き、微生物が体内へ侵入すること自体を起こりにくくします。
- 粘液・繊毛運動:気道では粘液に捕まえた異物を繊毛運動で外へ運び出す(粘液線毛クリアランス)ことで、侵入した微生物を排除方向へ動かします。
- 洗い流し(涙・唾液・鼻汁など):涙や唾液、鼻水などの分泌は、表面に付いた微生物を物理的に洗い流す働きがあります。
化学的防御
- 胃酸(塩酸):口から入った微生物の一部は胃酸によって殺菌され、消化管に到達する前に減らされます。
- 抗菌性分子(例:リゾチーム、ペルオキシダーゼなど):消化管粘膜や分泌液にはリゾチーム等の抗菌因子が含まれ、微生物の増殖を抑えます。
- 粘液による化学的バリア:消化管の粘液層は、微生物が上皮細胞へ直接近づくのを妨げる点でも防御に寄与します。
体内に入る前に止める意義
物理的・化学的防御は「第1の防御機構」として、微生物が侵入する入口の段階で働くことが重要です。
ここを突破されると、次に自然免疫や獲得免疫が必要になるため、バリア機構は感染成立の確率そのものを下げる役割を担います。
まとめ
微生物に対する防御は、まず皮膚・粘膜や粘液線毛クリアランスなどの物理的防御、胃酸や抗菌性分子などの化学的防御で侵入を抑えるのが基本です。
補体活性化の古典的経路と第二経路を比較せよ。
補体系の全体像(C1〜C9+他の因子)
補体系(complement system)は、血清中や細胞膜上に存在する多数のタンパク質(約30種)からなり、その中心にC1〜C9と番号が付いた主要成分があります。
C1〜C9は補体カスケードの中核で、最終的に膜侵襲複合体(MAC)を形成して標的膜に孔を開ける段階までつながります。
一方で、第二経路(代替経路)にはC1〜C9に加えて因子B・因子D(+properdinなど)のような追加因子が必要で、これらがC3転換酵素を作って反応を増幅します。
古典的経路(Classical pathway)
古典的経路は、抗原に結合した抗体(免疫複合体)をきっかけに補体が起動する経路です。
開始段階ではC1(C1qなど)が免疫複合体に結合し、C4とC2が切断されて反応が進みます。
この経路で作られるC3転換酵素(C3 convertase)は C4bC2a です。
第二経路(Alternative pathway/別経路・副経路)
第二経路は、抗体などを介さずに病原体表面などで補体が起動しうる経路として整理されます。
初期反応(起動〜増幅)では主にC3、因子B、因子Dが重要な構成要素として扱われます。
この経路で作られるC3転換酵素は C3bBb です。
どこが違い、どこが同じか(比較表)
| 比較点 | 古典的経路 | 第二経路 |
|---|---|---|
| 起動(トリガー) | 抗原抗体反応(免疫複合体)で起動する | 抗体を介さず、病原体表面などで起動しうる |
| 主な初期成分 | C1、C4、C2(+C3)を使って進む | C3、因子B、因子Dが中心となって進む |
| C3転換酵素 | C4bC2a | C3bBb |
| 免疫学的位置づけ | 抗体を使う点で、適応免疫のエフェクター機構と結びつく | 抗体非依存で作動しうる点で、自然免疫の一部として働く |
| 合流点 | いずれもC3活性化(→C5活性化)に収束する | いずれもC3活性化(→C5活性化)に収束する |
下流の共通アウトプット(両経路の到達点)
古典的経路でも第二経路でも、C3が活性化されC3aとC3bが生じ、その後C5転換酵素形成を経てC5がC5aとC5bに開裂する、という流れに合流します。
その後の終末経路ではC5bからC6〜C9が連鎖して膜攻撃複合体(MAC)形成へ進み、標的細胞膜の傷害につながります。
また、補体は「オプソニン化(C3bの沈着)」や「炎症誘導(C3a/C5a)」にも関わる、とまとめられます。
まとめ
古典的経路は「抗体依存」、第二経路は「抗体非依存」で起動し、両者は異なるC3転換酵素(C4bC2a vs C3bBb)を使いながら、最終的にはC3/C5活性化と終末経路へ収束します。
Emil von Behring は、1905 年にどのような証拠から抗体と補体を発見したか。
年代について
この設問の「1905年」は、歴史的事実としてはやや混ざっている可能性があります。ベーリングの代表的業績は1890年前後の抗毒素(antitoxin;現在でいう抗体の機能の一部)の発見と血清療法であり、補体(Komplement/Complement)の概念整理は主にエールリヒ、補体の実験的発見(alexin/補体活性の熱不安定性など)は主にボルデ(Bordet)側の流れとして語られるのが一般的です。
抗体(抗毒素)を示した「証拠」
ベーリング(と北里)の血清療法の系では、ジフテリアや破傷風に対して免疫を獲得した動物の血清を、別の動物へ移すことで防御(予防・治療効果)が得られる、という事実が決定的な証拠になります。
つまり「免疫の本体の少なくとも一部は、細胞そのものではなく血清中の可溶性因子として存在し、他個体へ受動移入できる」という観察が、抗体(抗毒素)の存在を強く示しました。
補体を示した「証拠」(抗体だけでは足りない、という証拠)
補体についてのクラシックな証拠は、「免疫血清が持つ特異性を与える要素(抗体側)だけでは、溶菌などの反応が完結せず、宿主由来の別の因子が補う(complement)必要がある」という観察です。
具体的には、in vivoでは溶菌が起こるのにin vitroでは起こりにくい、あるいは条件によって溶菌能が失われるが別の血清成分を加えると回復する、といった「二成分性(抗体成分+補体成分)」を示す現象が、補体という概念に結びつきました。
この「足りない何か」を後にエールリヒの理論枠組みの中でKomplement(補体)と呼ぶようになった、という整理が解説されています。
まとめ
オプソニン化とは何か。この過程で抗体の役割は何か。
オプソニン化とは何か
オプソニン化(opsonization)とは、微生物などの表面に「オプソニン」と呼ばれる血清因子が結合して目印を付け、好中球やマクロファージなどの食細胞による貪食(食作用)が起こりやすくなる現象です。
オプソニンとして代表的なのは、補体成分の C3b と、抗体の IgG です。
抗体の役割は何か
1) 病原体表面に結合して「目印」を付ける(特にIgG)
IgGが微生物に結合すると、それ自体がオプソニンとして働き、食細胞が異物を認識して貪食しやすくなります。
2) 補体(古典経路)を活性化してC3b沈着を促す(特にIgMも重要)
抗体(IgMやIgG)が抗原に結合すると、補体の古典的経路が起動し、最終的にC3が活性化されて C3bが病原体表面に沈着します。
このC3bも強力なオプソニンとして働くため、「抗体が補体を動かして、C3bという追加の目印を大量に付ける」ことがオプソニン化をさらに強めます。
まとめ
オプソニン化は「抗体(主にIgG)や補体(特にC3b)が病原体を標識して、貪食を促進する」過程であり、抗体は自分が目印になることと、補体を活性化してC3b沈着を促すことの両面で重要です。
B細胞で、再編成したV遺伝子だけが転写されることを保証するしくみは何か。
V(D)J再編成(V(D)J recombination)の定義
V(D)J再編成は、B細胞(抗体)やT細胞(T細胞受容体)が成熟する途中で、受容体の「可変領域」をコードするDNA断片を体細胞レベルで切り貼り(再結合)して、1つの完成した遺伝子(エクソン)を作る仕組みです。
この仕組みにより、同じ個体の中でも非常に多様な抗体/TCR(抗原受容体)のレパートリーが作られます。
V・D・Jとは何の略か
可変領域は、複数の遺伝子断片(遺伝子セグメント)から組み立てられます。
しくみの概要(結論)
ポイントは、免疫グロブリン遺伝子は V(D)J再編成そのものが「正しい転写ユニット」を作るスイッチになっていて、再編成が起きたVだけが「エンハンサーに支配される位置関係」になり、強い転写が可能になることです。
その結果、再編成していないV断片は「完全な抗体遺伝子(V領域エクソン)」として成立していない/エンハンサーの強い活性が及びにくいので、基本的に主役としては転写されません。
V(D)J再編成で転写できる形になる
B細胞(特に重鎖遺伝子座)では、多数あるV・D・J遺伝子断片のうち各1つが選ばれてDNA組換えで連結され、VDJという1つのエクソン(可変領域)が作られます。
この「VDJができる」ことが、抗体として意味のあるmRNA(VDJから定常領域まで読める一次転写産物→スプライシングで成熟mRNA)を作る前提条件になります。
「再編成したVだけ」が転写されやすくなる分子基盤
再編成Vだけが転写されることを支える要素は、主に次の3つです(用語はそのまま使います)。
- プロモーターとエンハンサーの再配置(cisでの連結)
各Vの上流にはプロモーターがありますが、強い転写には遺伝子座内のエンハンサー(重鎖ならEμなど)からの活性化が重要です。
V(D)J再編成によって、選ばれたVのプロモーターが(DJ〜C領域側の)エンハンサーの影響を受けやすい配置になり、そこで初めて「そのVが主役として強く転写される」状態が作られます。 - つながっていないVは完全な転写産物になりにくい
再編成していないVは、下流のJやC領域と「1本の連続した抗体遺伝子」としてつながっていないため、仮に局所的な転写が起きても、抗体mRNAとして必要な構造(VDJ+Cへつながる成熟mRNA)になりにくい、という制約があります。 - クロマチン状態(アクセシビリティ)の差
B細胞発生の段階で、再編成が成立して発現すべき対立遺伝子座ではクロマチンが開いた状態(アクセシビリティが高い状態)になり、転写因子が入りやすくなります。
逆に、主に発現しない側では抑制的なクロマチン状態になりやすく、結果として「再編成したVの転写が優先される」方向にバイアスがかかります。
補足:片方のアレルだけ発現(アレリック・エクスクルージョン)
質問の主旨から少し外れますが、B細胞では「片方の染色体の免疫グロブリン遺伝子座だけが機能的に発現する(アレリック・エクスクルージョン)」も重要です。
これは、1個のB細胞が基本的に1種類の抗体特異性を持つためのしくみで、結果として「(機能的に)再編成できたV遺伝子座だけが転写される」状況をさらに強固にします。
プレB細胞で、いったん生産的な免疫グロブリン重鎖遺伝子断片の再編成が起こると、別の対立遺伝子の重鎖遺伝子のさらなる再編成が阻止されるしくみは何か。
「生産的な再編成」が起きたことの意味
ここでいう「生産的(productive)」とは、V(D)J再編成の結果として読み枠(reading frame)が合い、機能するμ重鎖タンパク質が作れる状態になった、という意味です。
もし最初の対立遺伝子の再編成が非生産的なら、もう片方の対立遺伝子で再編成が続行されうる一方、生産的なμ鎖ができた時点で「停止」のフィードバックが入ります。
生産的μ重鎖とは
「μ(ミュー)重鎖」は、抗体(免疫グロブリン)の重鎖のうち IgMクラスを規定する重鎖(μ鎖)を指します。
「生産的(productive)」μ重鎖とは、免疫グロブリン重鎖遺伝子座でのV(D)J再編成の結果が読み枠(reading frame)に合っていて、途中で停止コドンが入らず、実際に機能するμ重鎖タンパク質として翻訳できる状態(=機能的な重鎖が作れる状態)を意味します。
この生産的μ重鎖ができると、発生中のB細胞ではμ重鎖が代替軽鎖などと会合して細胞膜へ運ばれ、次の段階(軽鎖再編成など)へ進むための前提条件になります。
しくみの中心:プレB細胞受容体(pre-BCR)シグナルによる対立遺伝子排除
生産的なμ重鎖ができると、μ重鎖が代替軽鎖(VpreB・λ5)およびシグナル伝達サブユニット(Igα・Igβ)と会合して、細胞膜上にプレB細胞受容体(pre-BCR)が形成されます。
このpre-BCRが膜上で機能すると、細胞内シグナルが入り、重鎖遺伝子座のさらなるV(D)J再編成が止まる(=対立遺伝子排除が誘導される)と説明されます。
直接の止める操作:RAG活性の低下
pre-BCRシグナルが入ると、V(D)J再編成に必要なRAG活性が低下し、その結果としてH鎖(重鎖)遺伝子の再構成が停止する、という因果関係で整理できます。
この「RAG活性低下 → 重鎖再編成の停止」が、もう一方の対立遺伝子での追加再編成を抑える主要な分子基盤です。
なぜ止める必要があるか(1細胞1特異性)
B細胞は基本的に「1つのB細胞が1種類の抗原特異性をもつ」ことが重要で、そのために重鎖遺伝子座で対立遺伝子排除を起こし、片方の成功が確認できたら追加の再編成を止める設計になっています。
付随して起こること:増殖と段階の切り替え
pre-BCRが発現すると細胞分裂が誘導され、重鎖再編成を止めた上でプレB細胞集団を増やす、という流れで説明されます。
まとめ
プレB細胞では、生産的μ重鎖ができるとVpreB・λ5・Igα/Igβと会合してpre-BCRを形成し、そのシグナルがRAG活性を低下させて重鎖遺伝子のさらなる再編成を停止させることで、対立遺伝子排除が成立します。
抗体はどのようにして、産生中のIgM抗体から他のアイソタイプの抗体へとクラススイッチするのか。
クラススイッチとは何が変わるか
クラススイッチ(class switch)は、B細胞が最初に主に産生するIgM(やIgD)から、IgG・IgA・IgEなど別のアイソタイプを産生するようになる現象です。
このとき変わるのは抗体の**重鎖定常領域(C領域)**であり、抗原特異性を決める可変領域(V領域)は基本的に維持されます。
分子機構:クラススイッチ組換え(CSR)
クラススイッチの実体は、免疫グロブリン重鎖遺伝子座で起こる クラススイッチ組換え(class switch recombination; CSR)というDNA組換えです。
代表例として、IgM→IgG1へのスイッチでは、外部刺激に応答してAID(activation-induced cytidine deaminase)が誘導され、Sμ領域とスイッチ先(例:Sγ1領域)の領域で転写が誘導されることが重要だと説明されています。
このスイッチ領域(S領域)での反応を経て、DNA上で組換えが起こり、結果としてV(D)Jの下流に連結される定常領域がCμから別のC領域へ置き換わることで、IgM以外のアイソタイプを産生できるようになります。
(教科書的には、このDNA切断と再結合にはDNA修復系が動員される、という理解で整理します。)
どのアイソタイプに切り替わるか(制御)
クラススイッチは、抗原刺激に加えてヘルパーT細胞からの刺激で起こりやすく、どのクラス(IgG/IgA/IgEなど)へ切り替わるかはヘルパーT細胞由来のサイトカインによって左右される、という整理が一般的です。
補足(IgMとIgD)
成熟B細胞がIgMとIgDを同時に持つ段階は、クラススイッチというより「(同じV領域を保ったまま)産生されるアイソタイプのレパートリーが変わっていく」流れの一部としてまとめられることが多いです。
抗体応答の親和性成熟を支える生化学的しくみは何か。
親和性成熟の中核:体細胞超変異(SHM)+クローン選択
親和性成熟(affinity maturation)は、胚中心(germinal center)でB細胞受容体(=抗体)の可変領域に変異が入り、その中から抗原により強く結合できるB細胞クローンが選択されて増えることで、抗体の親和性が上がる現象です。
この現象を支える生化学的な変異導入装置が体細胞超変異(somatic hypermutation; SHM)で、Tfh細胞などによる選択圧と組み合わさることで親和性が上がっていきます。
変異を作る酵素:AID
SHMの鍵分子として、活性化誘導シチジンデアミナーゼ(activation-induced cytidine deaminase; AID)が大きな役割を果たすことが示されています。
AIDが働くことで免疫グロブリン遺伝子(特に可変領域、CDRなど)に高頻度の塩基置換が導入され、結果として抗体の結合特異性・結合親和性が変化しうる状態が作られます。
変異が「成熟」になる理由:胚中心での選択
SHMで生じる変異はランダムなので、親和性が上がる変異も下がる変異も生じます。
胚中心では、抗原の獲得やTfh細胞からのシグナルなどを通じて、より高親和性のB細胞が生き残って増殖し、低親和性のB細胞は不利になる、という選択が繰り返されます。
まとめ
親和性成熟を支える生化学的しくみは、AID依存的に免疫グロブリン可変領域へ変異を導入する体細胞超変異(SHM)と、胚中心での選択(クローン選択)が連動することです。
MHCクラスIとクラスⅡ分子の構造を比較せよ。どのような種類の細胞がそれぞれのMHCクラスの分子を発現するのか。それらの機能は何か。
MHCクラスIとクラスIIの構造比較
どの細胞が発現するか
MHCクラスI(HLAクラスI)は、基本的にすべての有核細胞に発現すると説明されます。
MHCクラスII(HLA-DR/DQ/DPなど)は、抗原提示細胞(APC)を中心に発現するものとして整理されます。
それぞれの機能
MHCクラスIの機能は、細胞内で作られたタンパク質由来ペプチド(例:ウイルス感染で細胞内にできたウイルスタンパク質断片)を提示し、主にCD8陽性T細胞による感染細胞の認識・排除につなげる点にあります。
MHCクラスIIの機能は、細胞外由来抗原を取り込み・分解して得られたペプチドを提示し、主にCD4陽性ヘルパーT細胞の活性化を介して抗体産生や免疫応答の調整につなげる点にあります。
MHCクラスⅠ拘束経路を経た抗原プロセシングと提示の六つの段階を述べよ。
段階1:細胞内抗原タンパク質の用意(内因性抗原)
ウイルス感染やがん化などで、細胞質(や核)で「抗原になりうるタンパク質(内因性抗原)」が作られます。
段階2:プロテアソームによる分解(ペプチド生成)
これらのタンパク質はユビキチン化などを経て分解系に回され、プロテアソームで短いペプチド断片に分解されます。
段階3:TAPによるERへのペプチド輸送
生成したペプチドは、小胞体(ER)膜上の輸送体 TAP(transporter associated with antigen processing) によって、細胞質側からER腔内へ運ばれます。
段階4:ER内でのMHCクラスI分子の組み立て(シャペロン依存)
ER内でMHCクラスI分子(重鎖+β2ミクログロブリン)が折りたたまれ、シャペロン群(例:カルネキシン/カルレティキュリン/タパシン/ERp57など)に助けられながら、ペプチドを結合できる状態に整えられます。
段階5:ペプチドの編集・結合(安定な複合体の成立)
ERに入ったペプチドは、必要に応じてER内ペプチダーゼ(例:ERAP)で長さが調整され、MHCクラスIのペプチド結合溝に適合するものが結合します。
安定な「ペプチド–MHCクラスI複合体」ができると、次の輸送段階へ進める“合格”状態になります。
段階6:ゴルジ体経由で細胞表面へ輸送→CD8 T細胞への提示
ペプチド–MHCクラスI複合体はゴルジ体を経由して細胞表面に運ばれ、細胞表面で提示されます。
その提示をCD8陽性の細胞傷害性T細胞が認識することで、「感染細胞/異常細胞の排除」につながります。
まとめ
6段階を一口サイズで並べると、「内因性抗原の生成→プロテアソーム分解→TAPでERへ→MHC I組み立て→ペプチド結合→ゴルジ体経由で表面提示」です。
MHCクラスⅡ拘束経路を経た抗原プロセシングと提示の六つの段階を述べよ。
段階1:抗原の取り込み(外因性抗原)
抗原提示細胞(APC)が、細胞外のタンパク質抗原をエンドサイトーシス/ファゴサイトーシスで取り込み、エンドソーム系(小胞)へ入れる。
段階2:エンドソーム/リソソームでの分解(ペプチド生成)
取り込まれた抗原タンパク質が、酸性化したエンドソーム〜リソソソーム系でプロテアーゼにより短いペプチド断片に分解される。
段階3:MHCクラスII分子の合成(ER)
MHCクラスII分子(α鎖+β鎖)が小胞体(ER)で合成される。
段階4:MHCクラスIIのエンドソーム系への輸送
合成されたMHCクラスII分子が、エンドソーム系の小胞へ輸送される。
段階5:エンドソーム内でのペプチドローディング(会合)
エンドソーム系小胞内で、MHCクラスII分子が抗原ペプチドと会合(結合)し、MHCクラスII–ペプチド複合体が形成される。
段階6:細胞表面への輸送とCD4 T細胞への提示
形成されたMHCクラスII–ペプチド複合体が、小胞輸送(vesicular transport)によって細胞内小胞(エンドソーム系)から細胞表面へ輸送され、CD4陽性ヘルパーT細胞に提示される。
まとめ
6段階を一口サイズで並べると、「抗原の取り込み→エンドソーム/リソソーム分解→MHCクラスII合成(@ER)→エンドソーム系へ輸送→ペプチド結合→ゴルジ体経由で表面提示」です。
自己反応性のT細胞が胸腺から出て行くのを阻止するのは何か。
胸腺での負の選択
自己反応性のT細胞が胸腺から出て行くのを主に阻止するのは、胸腺内で起こる**負の選択(negative selection)**です。
負の選択では、未熟T細胞のT細胞受容体(TCR)が自己抗原(自己ペプチド)+自己MHCを“強く”認識すると、その細胞は生存できずに除去されるように分化が誘導されます。
自己抗原を提示する細胞
負の選択の場では、胸腺髄質上皮細胞(mTEC)や胸腺内の樹状細胞(DC)などが、未熟T細胞に対して自己抗原を提示します。
特に胸腺髄質では、胸腺上皮細胞が末梢組織に特異的な自己抗原も含めて提示しうることが知られており、自己反応性クローンの除去に寄与します。
胸腺髄質の線維芽細胞も自己抗原提示に関与し、自己反応性T細胞の除去(中枢性自己寛容)に寄与しうることが示唆されています。
「阻止」の実体:アポトーシス(クローン除去)
自己抗原に強く反応した未熟T細胞は、胸腺内で死ぬようにプログラムされており、結果として胸腺から末梢へ移出できません。
このクローン除去(clonal deletion)が、自己反応性T細胞が体内に出て自己免疫を起こす確率を大きく下げます。
もう1つの出口制御:制御性T細胞への分化
強い自己反応性クローンを「除去する」だけでなく、胸腺では一部が制御性T細胞(Treg)として分化し、末梢での免疫反応を抑える側に回る経路もあります。
胸腺の微小環境(mTECやDCによる自己抗原提示など)が、TCRシグナル経路を介してこの分化にも影響することが述べられています。
まとめ
自己反応性T細胞が胸腺から出て行くのを阻止する中心機構は、mTECやDCなどによる自己抗原提示にもとづく負の選択で、強い自己反応性クローンは胸腺内で除去(アポトーシス)されます。
T細胞を介した自己免疫疾患はMHCクラスⅡ遺伝子の特別な対立遺伝子と関連する理由を説明せよ。
前提:MHCクラスIIの役割
MHCクラスII分子(HLAクラスII)は抗原提示細胞(APC)で発現し、ペプチドを結合してCD4陽性T細胞に提示する分子です。
したがって、自己免疫(特にCD4 T細胞が関与するタイプ)では「どんな自己ペプチドが、どの程度提示されるか」が病態成立に直結します。
理由1:対立遺伝子ごとの“ペプチド結合溝”の違いが、提示される自己ペプチド集合を変える
HLAクラスIIは高度に多型で、対立遺伝子間のアミノ酸差は主にペプチド結合溝(peptide-binding groove)やTCR接触面に位置することが多いとされています。
その結果、どの自己ペプチドを安定に結合して提示できるか(提示レパートリー)が対立遺伝子によって変わり、自己反応性CD4 T細胞を活性化しやすい条件が生まれます。
実際、自己免疫疾患のリスクHLAクラスIIアレルでは、結合溝の特徴(例:関節リウマチで議論される“shared epitope”など)が自己抗原(場合によっては修飾自己抗原)提示に関与しうる、という整理があります。
理由2:胸腺での負の選択(中枢性自己寛容)に穴が生じうる
CD4 T細胞の自己寛容の成立には、胸腺でのMHCクラスIIを介した自己抗原提示が必須であり、提示される自己ペプチドの違いは負の選択(negative selection)の効率に影響します。
そのため、あるHLAクラスII対立遺伝子では「胸腺で十分に提示されない自己ペプチド」が末梢で提示される状況が起きると、自己反応性T細胞が残ってしまう、という説明が成立します。
さらに、HLA-DM/DOやCLIPとの相互作用など、MHC-II分子へのペプチドロード(交換)のしやすさの違いが、低親和性ペプチドの提示や空のMHC-II出現などに影響しうる、という議論もあります。
理由3:末梢での炎症条件下で自己抗原提示が増えると、遺伝的に有利な提示が発火点になる
炎症時には、APC側の抗原取り込み・プロセシングやHLA-DM/DOなどの条件が変化して、提示されるペプチドの幅や量が変わりうることが指摘されています。
このとき、特定のHLAクラスII対立遺伝子が「その状況で提示されやすい自己ペプチド」を持つと、自己反応性CD4 T細胞が活性化され、自己免疫が立ち上がりやすくなる、という因果で説明できます。
どのように抗原提示細胞とヘルパーT細胞はB細胞の活性化に関与するのか。
抗原提示細胞(APC)が担う段階:ヘルパーT細胞の“プライミング”
B細胞応答(T依存性抗体応答)では、まず樹状細胞などの抗原提示細胞(APC)が抗原を取り込み、MHCクラスII上に提示してナイーブCD4 T細胞を活性化(プライミング)します。
この段階でCD4 T細胞は分化し、B細胞を助ける能力を持つヘルパーT細胞(特に濾胞性ヘルパーT細胞:Tfh)へ向かう流れが作られます。
ヘルパーT細胞が担う段階:B細胞への“同義的(cognate)ヘルプ”
抗原に結合したB細胞は、BCRで抗原を取り込み、分解して、抗原由来ペプチドをMHCクラスIIに載せて提示します(B細胞自身がAPCとして働く段階)。
ヘルパーT細胞(Tfhなど)は、その ペプチド–MHCクラスII複合体をTCRで認識し(linked recognition)、そのB細胞に対してヘルプを与えます。
B細胞活性化を進める主要シグナル(接触依存+サイトカイン)
ヘルパーT細胞がB細胞を活性化させる代表的な接触依存性シグナルが CD40L(CD154)–CD40 相互作用で、T依存性B細胞活性化に重要な構成要素として位置づけられています。
さらにヘルパーT細胞は IL-4やIL-21 などのサイトカインを産生し、B細胞の増殖、生存、分化(形質細胞化・記憶化)を促進します。
このT細胞ヘルプにより、胚中心反応が成立し、クラススイッチ組換え(CSR)や親和性成熟が進む、と整理されます。
まとめ
抗原提示細胞はナイーブCD4 T細胞をMHCクラスII依存的に活性化してTfhなどのヘルパーT細胞を準備し、次にヘルパーT細胞がB細胞(抗原提示能を持つ)へCD40L–CD40とサイトカイン(IL-4/IL-21など)でシグナルを与えて、増殖・分化・クラススイッチ・親和性成熟へつなげます。

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